イタリアの優勝で幕が下りた今回の欧州サッカー選手権だが、ハンガリーについては国内サッカー協会(MLSZ)が欧州サッカー連盟(UEFA)から処罰を受けるという事件が起こった。極右フーリガン組織「カルパチア・ブリッジ」のメンバーを中心に、ハンガリーファンの観客が予選リーグの3試合で、人種・同性愛差別的な看板を掲げ、スローガンを叫んだことがその理由だ。
欧州サッカー反人種差別団体FAREと緊密に提携する非政府組織「主観的価値財団(Szubjektív Értékek Alapítvány)」のバーリント・ヨサー氏によると、「カルパチア・ブリッジ」はネオナチの武装集団。しかし、黒い衣服を身に着けることで無政府主義者や極左集団をよそおい、ハンガリーが出場した予選3試合のハンガリー観客席の最前列に陣取った。
一般の試合ではMLSZが人種差別に対して「ゼロ・トレランス(例外なく容認をしない)」の方針を貫いているため、カルパチア・ブリッジなどの極右がスタジアムになかなか入場できず、騒ぎが起こるのは会場外という。しかし、選手権を主催した欧州サッカー協会(UEFA)は、ハンガリーとポルトガル、フランスがそれぞれ対戦した2試合ですでに差別的な行動がみられたにもかかわらず、何の手も打たなかった。逆に、ハンガリー議会が反LGBT(性的少数者)法案を可決したのに抗議する印として、ハンガリーとドイツの対戦日に会場となるミュンヘン・スタジアムを虹色にライトアップするミュンヘン市の計画を「UEFAの政治的中立性を侵す」として禁止した。
その対ドイツ戦でも差別的行為がみられたため、UEFAは事後的に審査を実施。ようやくクロの判定が出た。これにより、MLSZはUEFA主催のゲーム2試合を無観客で開催するとともに、罰金10万ユーロを支払わねばならなくなった。また、今後2年で同じようなことが繰り返された場合には無観客試合がもう1試合増える。さらに、無観客試合では観客席に平等の大切さを訴える「EqualGame」のバナーをどこからでも見えるよう掲げることも義務付けられた。
自らの落ち度を共催団体である現地のサッカー協会に肩代わりさせただけのような気もするが、UEFAとしては大きな転換を意味する。というのも、「政治的シンボル」を排除することで「政治的中立性」を保てるというUEFAの建前に今回の事件で修正が入ったからだ。対ハンガリー戦でドイツチームのマヌエル・ノイアー主将が虹色の腕章をつけていたことでもUEFAは「中立性を侵した疑い」で審査を開始したが、早くも翌日には「『多様性』を受け入れるチームの姿勢を示すという正当な理由があった」と、おとがめなしの判断を下した。
ハンガリーの反LGBT法は、学校やメディア、公共の場で青少年を対象としたLGBTに関する啓もうを一切禁止するものだ。映画や小説で同性愛カップルを描くこともできなくなるとみてよい。国民の中に根強いLGBT差別の温存・助長につながる可能性が強く、欧州連合(EU)も性的指向を理由とした差別を禁止する欧州法に違反しているとして、是正を強く働きかけていく姿勢を示している。