ドイツ政府は1日の閣議で、新型コロナウイルスの職場感染を防止するための政令を一部改正したうえで11月24日まで延長することを決定した。感染第4波が到来するなか、被用者のワクチン接種を促進しこれまでよりも強固な感染防止体制を構築できるようにすることが改正の狙いだが、被用者の接種の有無について質問する権利を雇用主に認めていないことから、経済界からは「全く役に立たない」(金属雇用者団体ゲザムトメタル)との批判が出ている。10日付で発効する。
被用者の接種を促進するため、改正政令には◇どうすれば接種を受けられるかを被用者に情報提供する◇職域接種に際し産業医をサポートする◇ワクチン接種を受けに行く被用者の勤務を免除する――を雇用主に義務付けることが盛り込まれた。感染防止策の作成や出社社員に対する抗原検査の提供などこれまでの義務は引き続き適用される。
職場感染を防ぐためには、どの社員がワクチンの接種を受け、どの社員が受けていないかをあらかじめ把握しておくことが本来、重要だ。イエン・シュパーン保健相(キリスト教民主同盟=CDU)は8月30日のテレビ番組で、「オープンプランオフィスで働く全員が接種済みであれば、私は50%が未接種の場合とは異なった行動を取れるでしょう」と明言した。会議を対面で行うかネット上で行うかを決める際などにも有力な判断材料になる。
それにもかかわらず、改正政令には接種の有無を雇用主が質問する権利が盛り込まれなかった。所轄大臣のフベルトゥス・ハイル労相(社会民主党=SPD)は「被用者のワクチン接種ないし感染からの回復ステータスを雇用主が知る権利はこの(改正政令の)規定からは発生しない」と明言した。
背景には、接種の有無を雇用主が知る権利にSPDの支持基盤である労組が強く反対していることがある。独労働組合連合会(DGB)の役員は、「接種を受けたかどうかという情報は被用者の他の健康データと同様、個人情報として保護される」と指摘。事業所内での安全確保は雇用主の義務であり被用者の義務ではないとして、被用者が個人情報を犠牲にする必要はないとの立場を表明した。
ハイル労相は改正政令に接種の有無を知る権利を盛り込まなかったことについて、自らの所管外であるためだと弁明した。この権利を実現するためには保健省が所管する感染防止法の改正が必要だと指摘。競合CDUのシュパーン保健相に責任を押し付けた。連邦議会選挙を目前に控え労組の反感を買いたくないというSPDの本音が透けて見える。
シュパーン保健相は接種の有無を知る権利を感染防止法に盛り込むことは考えられるとして、法改正に前向きな姿勢を示している。政府の個人情報保護担当者によると、新型コロナを撲滅するためという制限付きであれば同権利を導入することに問題はないという。