独自動車工業会(VDA)は3日、ウクライナに軍事侵攻したロシアへの批判声明を発表した。ヒルデガルド・ミュラー会長は「この侵略戦争は明白な国際法違反だ」と非難したうえで、「欧州連合(EU)の制裁を断固支持する」と明言した。ドイツ政府とは状況に関する情報を得るほか、制裁の実行に絡んだ企業の疑問を伝えるために、緊密に連絡を取っている。
VDAの声明では戦争と対露制裁が自動車業界にもたらす影響についても触れている。それによると、ウクライナとロシアへのドイツからの車両輸出台数は昨年4万台強だった。乗用車ではウクライナ向けが4,100台、ロシア向けが3万5,600台で、ドイツの輸出に占める割合は計1.7%だった。
ドイツ企業がロシアで昨年、生産した乗用車は17万台に上った。同国市場での独メーカーのシェアは20%弱となっている。
独自動車メーカーとサプライヤーのロシア工場は計43カ所に上る。ウクライナは同6カ所。
戦争勃発で供給不足がすぐに発生する部品としてはワイヤーハーネスを挙げた。ウクライナはチュニジアとともに欧州メーカーの主要は供給元であるためだ。同部品は複雑であるうえ、車両モデルごとに仕様が異なることから生産拠点を短期間で変えることはできないという。すでにフォルクスワーゲン(VW)の独工場ではワイヤーハーネス不足で生産が一時停止された。
原料に関してはレアガスのネオン、排ガス浄化に用いるパラジウム、リチウムイオン電池の主要原料であるニッケルを挙げた。ネオンはウクライナが主要な生産国。同国からの輸出が難しくなっていることから、欧州の半導体生産に支障が出、コロナ禍からの景気回復で発生した半導体不足に拍車がかかる懸念がある。
パラジウムとニッケルはロシアが主要な産出国。ドイツが輸入するパラジウムの約20%はロシア産という。
これ以外の原料と部品については現時点で影響を数値化できないとしている。
物流企業はすでにウクライナ、ロシアを対象とする輸送業務を停止、縮小している。このため部品の供給が難しくなっており、工場の操業に影響が出ている。VWグループは3日、ロシア工場での生産を当面、凍結することを明らかにした。サプライチェーンのひっ迫は最大市場の中国での生産にも影響する可能性がある。
EUや米国の制裁はウクライナ情勢が今後一段と激化すると、強化されるとVDAは予想している。ただ、自動車業界が受ける影響については現時点で見定められないとしている。