欧州連合(EU)は11日、フランスで首脳会議を開き、ウクライナ危機への対応を盛り込んだ「ベルサイユ宣言」を採択して2日間の日程を終えた。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、天然ガスや原油などロシア産化石燃料への依存をできるだけ早く解消することで合意。安全保障上の懸念が強まっていることから、国防費を大幅に増額してEUの防衛力強化を図ることでも一致した。
宣言には「ロシアのガス、石油、石炭に依存している状態から可能な限り早く脱却する」と明記した。エネルギーの安定供給を確保するため、化石燃料の利用そのものを削減しながら、LNG(液化天然ガス)やバイオ燃料など調達先の多様化、自然エネルギーの開発、域内の電力・ガス網の相互接続を推進する。
欧州委員会のフォンデアライエン委員長は会議後の記者会見で、2027年までにエネルギー分野におけるロシア依存からの脱却を目指すと表明。5月末までに実現に向けた具体策をまとめる方針を示した。
国際エネルギー機関(IEA)によると、EUは21年にロシアから1,550億立方メートルの天然ガスを輸入した。これはEUによるガス輸入の45%に相当する(原油と石炭ではロシア産の割合がそれぞれ27%、46%)。
首脳会議に先立ち、欧州委は8日、エネルギー分野におけるロシア依存からの脱却とエネルギー安定供給に向けた政策文書を発表した。天然ガスの供給源を多様化するとともに、化石燃料への依存を解消して再生可能エネルギーやグリーン水素の普及を図ることなどが柱。天然ガスについてはカタールや米国、エジプトなどから液化天然ガス(LNG)の輸入を増やすほか、アゼルバイジャン、アルジェリア、ノルウェーなどとも供給増に向けた協議を加速させる。
政策案には域内のガス事業者に一定量の備蓄を義務付けることも盛り込んだ。暖房需要が膨らむ冬に供給不足に陥らないよう、10月1日までに90%以上の備蓄を求める内容。欧州委は4月中に法案をまとめる方針を示している。
ロシア産エネルギー資源の輸入停止は見送った。米国のバイデン大統領は8日、ロシアに対する追加制裁として、同国からの天然ガス、原油、石炭と関連製品の輸入を全面的に禁止すると発表し、即日実施。英政府も同日、ロシアからの原油の輸入を段階的に減らし、年末までに停止すると表明した。米英が足並みを揃える中でEUの対応が注目されたが、域内ではドイツやイタリアでロシア産エネルギーへの依存度が高く、短期間でロシアに代わる調達先を確保するのは困難と判断した。