欧州議会は14日の本会議で、欧州連合(EU)全体で最低賃金の適正化を図るための指令案を賛成多数で可決した。加盟国が域内共通のルールに沿って最低賃金の設定枠組みを整備し、最低賃金を妥当な水準とするのが指令案の狙い。閣僚理事会の正式な承認を経て新指令が施行され、加盟国はその後2年以内に国内法を整備する必要がある。
指令案は欧州委員会が2020年10月に発表した。域内の労働者が法定最低賃金や労働協約による保護を受けやすくし、生活維持に必要な適正レベルの最低賃金を確保するのが目的で、EU共通の最低賃金を設定するものではない。また、労働協約により最低賃金を決定している加盟国に対し、法定最低賃金の設定を義務付けることもしない。
最低賃金の設定は引き続き加盟国に委ねられるが、法定最低賃金を設定している加盟国は、労働者が人間らしい生活を維持するのに十分な水準に達しているかの評価を義務付けられる。最低賃金は明確な基準に沿って設定または改訂しなければならず、物価や購買力、賃金上昇率、労働生産性などを考慮する必要がある。法定最低賃金の妥当性評価に際し、加盟国は評価基準として、フルタイム従業員の賃金総額の中央値と平均値を100とした場合の比率をそれぞれ60%、50%に設定することができる。
一方、労働協約により最低賃金を設定している加盟国では、労使交渉で適切な水準と適用範囲が決定されるよう、正確な情報に基づく建設的な団体交渉を促す必要がある。労働協約で保護される労働者が80%を下回る加盟国は、適用率を引き上げるための行動計画を策定し、明確な工程表と具体的措置を提示することが義務付けられる。
また、労働者が最低賃金による保護を受けやすくするため、加盟国は査察官を置くなど監視体制を強化し、下請け搾取やサービス残業などを取り締まることが義務付けられる。
EUでは現在、21カ国が法定最低賃金を定めているが、月額400ユーロ未満のブルガリアやルーマニアから2,000ユーロを超えるルクセンブルクやオランダなど、国によってばらつきが大きい。一方、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イタリア、オーストリア、キプロスの6カ国は労働協約による賃金設定を行っている。