ドイツ政府は26日の閣議で、同国北部のハンブルク港トラーオルト・コンテナター埠頭(CTT)に海運大手の中国遠洋海運集団(COSCO)が戦略出資する計画について、その一部を認めないことを決定した。計画を全面的に認めると「公共の秩序と安全に危険」が生じる恐れがあると判断した。同ターミナルへのCOSCOの出資が「海洋強国」化を目指す中国政府の戦略の一部となり、独・欧州に悪影響をもたらすことを警戒。地政学的なリスクを踏まえ、出資比率を本来の計画の35%から25%未満に引き下げることを命じる。
COSCOは昨年9月、CTTに戦略出資することでハンブルク港運営会社HHLAと合意した。港湾物流子会社である中遠海運港口(CSPL)を通して出資し、同埠頭を欧州におけるCOSCOの荷物積み替えの「優先ハブ」とする計画だ。
ハンブルク港の貨物取扱量に占める中国貿易の割合は約30%と断トツで多いことから、HHLAと同社の過半数資本を持つ地元ハンブルク市(州)はCTTへのCOSCOの戦略出資を通して中国との海運が一段と活発化し、大きな経済効果がもたらされると期待していた。
独連邦カルテル庁はすでに出資計画を承認していた。だが、政府・与党内では強権化する中国に対して批判的な緑の党と自由民主党(FDP)が承認に強く反対。貿易法に基づいて自国企業への外資の出資計画を審査する所管大臣のロベルト・ハーベック経済相(緑の党)は認可しない立場を示してきた。これに対しオーラフ・ショルツ首相(社会民主党=SPD)が認可支持の姿勢を取ったことから、政府決定が遅れていた。
政府は今回の決定でCOSCOの出資を25%未満の純投資に制限することで、同社が役員派遣や拒否権行使を通してCTTの運営に影響力を行使することができないようにした。純投資以外の手段を通してCTTに影響力を行使することも認めないといしている。
経済省の文書をもとに『フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)』紙が報じたところによると、同省はCOSCOが国外の港湾などにまず少数株主として資本参加した後に出資比率を引き上げ、経営権を獲得してきた手法を問題視。戦略出資を認めると、CTTが同社の影響下に入り、重要な決定が遅れたり阻止される事態が起こり得ると分析していた。
COSCOは中国政府が世界の覇権を握るために推進する「一帯一路」プロジェクトの主要な担い手で、2017年にはギリシャのピレウス港湾公社の株式67%を取得した。欧州連合(EU)の欧州委員会は域内で新たに同様のケースが起こることを警戒しており、CTTへのCOSCOの出資計画についてもドイツ政府に懸念を示していたもようだ。
一方、COSCOはライン川とルール川の合流地点にあるデゥースブルク港ゲートウェイ埠頭の運営会社DGTから6月末で資本撤退していた。FAZ紙が26日付で報じたもので、理由は不明。デゥースブルク港と同港を所管する地元ノルトライン・ヴェストファーレン州経済省は、契約上の取り決めにより理由を公表できないとしている。
DGTはデゥースブルク港とCOSCOが各30%、物流会社のHTS(オランダ)とフーパック(スイス)が各20%出資して2020年に設立した企業。同紙が商業登録簿で確認したところ、COSCOはDGT株30%をデゥースブルク港に売却していた。同港は中国と欧州を結ぶ鉄道貨物網の主要拠点で、一帯一路で重要な役割を果たしていることから、COSCOの資本撤退は憶測を呼びそうだ。