環境相理が産業排出指令の改正案採択、畜産農場に対する規制の適用基準緩和

EU加盟国は16日の環境相理事会で、大規模産業施設や集約型畜産農場などで発生する汚染物質の排出規制を強化する「産業排出指令」の改正案を採択した。規制の対象となる産業活動や施設を拡大し、大気、水、土壌に排出される有害物質を削減して人間の健康と環境の保護を強化する。近く欧州議会との交渉を開始し、早期の法案成立を目指す。

産業排出指令は発電、廃棄物処理、焼却、集約畜産などの産業から排出される窒素酸化物、硫黄酸化物、アンモニア、メタン、水銀などを規制するもの。現行指令では約3万カ所の大規模産業施設と約2万カ所の大規模養鶏・養豚場を対象に、排出許可の要件を設け、汚染物質の環境への排出を最大限抑制するための「利用可能な最良の技術(BAT)」の導入を義務付けている。

産業排出指令の改正案は欧州委員会が2022年4月に提案したもので、その後、閣僚理と欧州議会で討議されていた。最大の争点となっている畜産農場に関しては、これまで対象外だった養牛場を新たに加えるとともに、養鶏・養豚場の対象範囲も拡大し、150家畜単位(LSU:家畜の飼養密度を表す指標)以上の生産者を規制の対象とする内容。乳牛で150頭、肥育豚で300頭、肉用鶏で2万羽強、採卵鶏で1万羽強に相当し、欧州委は全体の13%に当たる約18万5,000カ所が対象となると説明していた。

これに対し、業界団体は影響を受ける農場数が過小に見積もられていると反発。今年に入り開かれた農相理事会や欧州議会農業委員会では、食料安全保障や持続可能な畜産経営の観点から基準となる150LSUの緩和を求める声が上がっていた。

こうした流れを受け、環境相理では欧州委案を修正し、養牛と養豚は350LSU、養鶏は280LSU、畜産と作物栽培の混合農業は350LSU以上の集約型畜産施設を規制の対象とすることで合意した。ロイター通信によると、ドイツ、イタリア、ポーランド、ブルガリアなどが基準の緩和を強く求め、最終的にデンマーク、フィンランド、アイルランド、ルクセンブルク、オランダが譲歩して合意が成立した。

このほか改正案によると、新たに鉱業活動を規制の対象とし、金属やレアアースなどの非エネルギー鉱物および鉱石について、1日あたりの生産能力が500トンを超える施設に指令が適用される。また、BATへの採用に向けて早期実用化が可能な新興技術を特定・評価するための「産業転換と排出に関するイノベーションセンター(INCITE)」を設置する。

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