欧州連合(EU)加盟国は12日開いた雇用・社会政策担当相理事会で、インターネットを介して単発で仕事を請け負う「ギグワーカー」の権利保護を目的とする指令案の内容で合意した。配車サービスや料理宅配などに従事する労働者が、最低賃金や有給休暇、年金など、従業員と同等の扱いを受けられるようにすることが柱。今後、欧州議会との協議に入り、最終案を取りまとめる。
指令案は欧州委員会が2021年12月に発表した。欧州委によると、ネット上で仕事を仲介するプラットフォーム企業はEU域内に約500社あり、約2,800万人が働いている。25年にはこの数が4,300万人に達すると予想されているが、こうしたギグワーカーのうち約550万人は「個人事業主」とみなされており、ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が可能である一方、一定数はプラットフォーム企業と実質的な雇用関係にありながら、最低賃金や労働災害などの保護が受けられない状態にある。
欧州委はこうした現況を踏まえ、プラットフォーム企業がギグワーカーを「従業員」として扱わなければならない基準を明確にした。企業が◇報酬を決定したり、上限を設定している◇電子的手段で労働状況を監督している◇労働時間や作業内容の選択などを制約している◇服装や行動についてルールを設定している◇顧客との関係構築や他の事業者のために働くことを制限している――のうち、2つ以上に該当した場合、プラットフォーム企業は「雇用主」として働き手に従業員と同じ権利を保障しなければならない。
閣僚理で採択された修正案は、欧州委が設定した5つの基準に、企業が◇業務を受注または拒否する裁量権を制限している◇受注した業務を第三者に委託する裁量権を制限している――を追加。合わせて7つの基準のうち3つを満たせばギグワーカーは従業員とみなされ、従業員と同等の権利が保障される。企業が従業員ではないとみなす場合は、国内法に沿って実質的な雇用関係が存在しないことを証明しなければならない。
また、プラットフォーム企業は労働者を管理・評価したり、手数料などを設定するアルゴリズムがどのように活用されているかについて情報を開示し、監督当局が運用状況を確認できるようにする必要がある。適切に運用されていないことが判明した場合、労働者は補償を請求できる。
指令案をめぐり、欧州議会は今年2月、ギグワーカーの権利保護を重視する立場から、プラットフォーム企業に対する規制を強化する内容の修正を採択した。一方、コスト増大を懸念するプラットフォーム企業のロビー活動などを受け、一部の加盟国は厳格な規制の導入に難色を示していた。閣僚理では最終的に、ギグワーカーを従業員とみなす条件について、欧州委案の「5つの基準のうち2つ」から「7つのうち3つ」と、わずかながら適用条件を厳格化する修正案が採択された。EU関係者によると、採決で反対票を投じた国はなかったものの、ドイツ、スペイン、ギリシャ、エストニア、ラトビアが棄権し、スペインやオランダなどの「推進派」からは欧州委案と比べて「野心的でも効果的でもない」といった声が出ている。