医療のデジタル化とデータ有効活用へ、2法案を閣議了承

ドイツ政府は30日の閣議で、医療制度デジタル化加速法(デジタル法)案と医療データ活用法案を了承した。国際的にみて遅れている医療制度のデジタル化を加速して欧州最先端のインフラを構築するとともに、地盤沈下する研究環境を改める狙い。カール・ラウターバッハ保健相は、医薬品の開発・認可・生産に要する時間を短縮化するための法案も年内に作成する意向を表明した。

デジタル化法案は電子カルテ(ePA)と電子処方箋(E-Rezept)の普及を狙ったもの。電子カルテと電子処方箋はすでに実用化されているものの、ほとんど利用されていないことから、普及促進に向けて法案を作成した。

公的健康保険の被保険者は電子カルテを基本的に全員が2025年1月15日付で受け取る。被保険者が事前に拒否の意思を表明しない限り、各健保組合は電子カルテを作成することになる。政府はこれにより、電子カルテを持つ被保険者の割合を現在の1%未満から大幅に引き上げる意向だ。民間の健康保険会社は被保険者の電子カルテ作成を義務付けられていないものの、各社の判断で導入できる。

電子カルテには病歴や治療歴、処方歴、診断結果、画像データ、検査の数値など被保険者各人の健康データを総合的に記録したもの。本人のほか、医師や薬剤師が閲覧できる。活用することで治療の質・効率の向上、重複検査や薬の副作用の回避といった効果を期待できる。

データはサーバー上で保管され、パソコンやスマートフォンなどの端末に保存することはできない。閲覧にはアプリが必要。保健省によると、セキュリティは極めて高い。

情報の自己決定権は保障されており、被保険者は自らのデータを閲覧できる人やアクセスできる期間・内容を制限することができる。また、自身の各データを誰がいつ閲覧したかをチェックできる。

ドイツで発効される電子処方箋は年250万件で、紙ベースのものの同4億5,000万件を大幅に下回る。今年に入って状況は改善してきたものの、政府は新法案を通して電子処方箋に実質一本化する意向だ。24年1月1日から電子処方箋の作成を医師に義務化。これを守らない場合は診療報酬を1%削減する。患者は健康保険カードや電子カルテ用アプリを用いて医薬品を薬局で受け取ることになる。

医療データ活用法案は電子カルテに記録された情報と、健康保険組合の決済データ、がんデータバンクのデータを医薬品や治療法の開発、研究のために利用しやすくする目的で作成された。プライバシーを保護するため、データはすべて匿名化される。また、患者は自身の電子カルテに記録されたデータを利用できないようにすることができる。

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