風力発電設備の欧州バリューチェーン強化へ、独経済相と業界代表が合意

ドイツのロベルト・ハーベック経済・気候相は16日、欧州風力発電タービンメーカー
とサプライヤーの代表と会談し、欧州域内のバリューチェーン強化措置で合意した。
不当な助成措置や重要材料の独占を背景に存在感を急速に高める中国を強く意識した
内容で、公正な競争環境の創出や風力発電機に必要不可欠な永久磁石の中国依存低減
を目指す。ハーベック氏は「この産業が競争力を保ち独・欧州の将来のバリュー
チェーンの前提が成り立つようにするためには、枠組み条件を一段と改善しなければ
ならない」と強調した。
風力発電設備市場では長年、シーメンスやヴェスタス、ゼネラル・エレクトリック
(GE)といった欧米メーカーが強い存在感を示してきた。だが、近年は中国勢が急速
に台頭。同国製品の世界市場シェアは6割を超えた。
ドイツでも先ごろ、投資会社ルクスカラが北海のボルクム島沖で計画する風力発電
パーク「ウォーターカント」のタービン入札で中国最大手の明陽風電集団が落札に成
功した。同国の洋上風力発電プロジェクトに中国製タービンが採用される初めての
ケースだ。
風力発電事業者の業界団体である欧州風力協会(ウインドヨーロッパ)によると、中
国メーカーは欧州メーカーより30〜50%低い価格で入札に参加するうえ、数年間の支
払い先送りという調達側に極めて有利な条件を付ける。こうした条件での応札は大規
模な国家支援なしには不可能とみられている。
今回の会談はこのような状況を受けて開催されたもので、合意文書には、歪んだ市場
競争環境を是正するための政策が必要との認識が盛り込まれた。反ダンピング(不当
廉売)・反補助金措置といった古典的な政策のほか、欧州連合(EU)域外の国・地域
の政府から補助金などの支援を受けた企業によるEU企業の買収などを制限する「外国
補助金に関する規則(FSR)」の活用を欧州委員会に働きかけていく。経済・気候省
は、風力発電部品の分野でFSR違反の疑いがあるとして欧州委が調査を開始したこと
を明らかにした。
中国メーカーが国の大規模な資金支援を受け国際競争力を不当に高めていることに絡
んでは、独復興金融公庫(KfW)、欧州復興開発銀行(EBRD)、欧州投資銀行
(EIB)、その他の輸出金融機関が事業戦略を改め、欧州メーカーの支援を拡大する
ことを求めている。
風力発電設備と部品の生産立ち上げに対しては、政府がKfWのGX(グリーントランス
フォーメーション)プログラム「協調融資・持続可能なトランスフォーメーション」
を通した融資保証支援を行う意向だ。
欧州は永久磁石の90%以上を中国からの輸入に依存している。EUはこの現状を改善す
るため、重要資源の域内調達を強化する重要原材料法(CRMA)と、「ネットゼロ技
術」の域内調達を拡大するネットゼロ産業法(NZIA)を策定した。今回の合意文書に
は、これら目標の実現に向けたロードマップを今年末から来年初頭にかけて作成する
ことが盛り込まれた。
同文書ではさらに、エネルギー分野で使用される重要なIT部品をセキュリティ検査の
対象に加える必要性が強調されている。風力発電をはじめとするエネルギーインフラ
を対象とするサイバー攻撃の脅威が高まっているためだ。風力発電業界内にはエネル
ギーインフラのデータが中国側に筒抜けになることへの懸念がある。
サイバーセキュリティ分野の法令で定められた要件を満たさなければならないエネル
ギー企業の範囲拡大要求も盛り込まれた。

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