新型コロナウイルスのワクチンをめぐり、EUと英国の関係が急速に悪化している。EUはワクチン外交を展開する中国やロシアへの警戒感を強めているが、英国との対立は途上国も含めた世界全体でのワクチン普及を図るうえで新たな障害になりかねず、早期の関係修復が求められる。
今回の対立はEUのミシェル大統領が9日、「英国と米国は自国で生産したワクチンや成分の輸出を全面的に禁止している」と発言したのが発端。ジョンソン英首相は10日の議会下院でこれを完全に否定。英外務省は同日、駐英EU代表部のニコル副代表を呼び出してミシェル氏の発言に抗議し、訂正を求めた。
これに対し、ミシェル氏は米メディアの取材を受け、「輸出制限には様々なやり方がある」などと反論。英国に対し、これまでにどれだけのワクチンを輸出したか明らかにするよう求めた。
対立の背景には、英国で既に人口の3分の1以上が1回目の接種を終えたのに対し、EUでは接種率が10%程度にとどまっており、EU向けワクチンが予定通りに供給されていないとの不満がある。英側は相対的にワクチン接種が順調に進んでいる理由について、複数の製薬会社と交わした供給契約とサプライチェーンへの投資が奏功したと説明しているが、EU側は英アストラゼネカとの契約には国内向けの供給を最優先する条項が盛り込まれており、これが実質的にEU向けの輸出を妨げていると非難している。
英首相官邸の報道官はこうした指摘に対し、「製薬会社が顧客と結んだ契約に基づいて内外への供給が行われている」と述べるにとどめ、EU向けの供給が実際に契約に沿って行われているかどうかについては言及を避けた。
一方、EUもワクチンの輸出規制を導入しており、イタリアは今月4日、自国で生産されたアストラゼネカ製ワクチン約25万回分のオーストラリアへの輸出を差し止めた。ミシェル氏はEUによる輸出制限措置について、「EUと契約を結んだ製薬会社が約束した量を納入せず、他の先進国に輸出することを防ぐための措置」と強調し、「ワクチンナショナリズム」との指摘を否定した。