EUと英、北アの通商ルール見直し巡る交渉不調

欧州連合(EU)と英国は5日、英政府がEU離脱協定に盛り込まれた「北アイルランド議定書」の大幅な見直しを求めている問題について協議したが、進展はなかった。英国側はEUに譲歩を迫るため、交渉が不調に終われば協定の一部を一方的に破棄すると警告しており、双方間の緊張が高まっている。

離脱協定には北アイルランドとアイルランドの紛争に終止符を打った1998年の和平合意に基づいて「北アイルランド議定書」が盛り込まれ、北アイルランドはEU単一市場と関税同盟に残った。これによって北アイルランドは英国領でありながらEUの通商ルールが適用される「特区」のような存在となったため、英本土から北アイルランドに流入する食品など物品については、国内の移動であるにもかかわらずEUの厳しい食品・衛生基準を満たさなければならず、通関・検疫が必要となる。

英政府は北アイルランドで英本土から流入する物品の通関手続きが必要となったことに伴い、物流混乱の問題が生じているとして、7月に離脱協定のうち、北アイルランドとEU加盟国アイルランドの自由な通商を維持するため設けたルールの大幅な見直しを要求。本土から北アイルランドに入る物品のうち、北アイルランド経由でアイルランドなどEUに輸出されるものだけを通関・検疫手続きの対象とすることを目指している。

これに応じてEUは10月中旬、英本土から入る物品の通関・検疫手続きを大幅に緩和する譲歩案を発表した。衛生植物検疫措置(SPS)を緩和して食品などの検疫検査を80%減らし、通関で必要な書類手続きを50%削減するといった内容だ。しかし、英国はさらなる譲歩を求めている。北アイルランドの通商ルールをめぐる紛争を欧州司法裁判所の管轄とするルールの撤廃が主眼だ。

英国でEU離脱問題を担当するフロスト内閣府担当相と欧州委員会のシェフチョビチ副委員長が5日に行った協議では、英国側がEUの案では北アイルランドが抱える根本的な問題に対応できず、同国の主張と大きな溝があるとして、妥協案の受け入れを改めて拒否。シェフチョビチ副委員長は協議後の記者会見で「英国側からの(歩み寄りに向けた)動きはまったくなかった」と述べ、進展がなかったことを認めた。

離脱協定には不測の事態が生じた際、英国またはEUが一方的に、取り決めの一部を履行しないことを認める特別条項がある。英国は協定見直しを要求した際に、EUが応じなければ同条項に基づく権利を行使することをちらつかせ、交渉開始に持ち込んだ。この「瀬戸際戦術」を続けて局面を打開し、EUに要求をのませる方針だ。フロスト内閣府担当相は記者団に「すぐに権利を発動するつもりはないが、用意はできている」と述べ、〝引き金〟に手をかけていることを強調。EUに譲歩を迫った。

これに対してシェフチョビチ副委員長は、一方的な破棄は「北アイルランドの情勢を不安手化させ、EUと英国の関係にも深刻な結果をもたらす」として、英国側の動きを牽制した。

フロスト内閣府担当相とシェフチョビチ副委員長は12日に協議を再開する。しかし、双方の溝は大きく、英フィナンシャル・タイムズによるとEU側では英国が引き金を引いた場合の対応策を加盟国が検討し始めている。EUと英国の自由貿易協定を破棄するという強硬措置を支持する国もあるという。

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