独SAPやシーメンスなど、「データ法案」見直し要求

産業データを企業間や官民間で広く共有し、有効活用するためのルールを定めた「データ法案」をめぐり、欧州産業界から企業の機密情報を危険にさらす恐れがあり、競争力の低下を招きかねないといった批判の声が上がっている。欧州メディアによると、欧州ソフトウエア最大手SAPや産業システム大手シーメンスなどドイツの有力企業5社と業界団体は、8日までに共同で欧州委員会に書簡を送り、産業データへのアクセス権に関する規定の一部見直しを求めた。

データ法案は、欧州連合(EU)がデータ経済で主導権を握るための「欧州データ戦略」に基づく法的枠組みの1つとして、欧州委員会が2022年2月に発表した。産業データへのアクセスと利用を保証する公平で明確なルールを整備してデータの単一市場を構築し、個人やビジネスが生み出す膨大なデータを技術革新や経済成長につなげる狙いがある。欧州委はデータ法が成立して企業間などでより多くのデータが利用可能になれば、28年までにEUの域内総生産(GDP)を約2,700億ユーロ(約40兆円)押し上げると試算している。

法案が念頭に置いているのは、コネクテッドデバイス(スマート家電や産業機械など)に蓄積されるデータ。こうしたデータはメーカーが独占的に取得するケースがほとんどだが、欧州委はユーザー自身がこうしたデータにアクセスし、他のメーカーを含む第三者と共有できるようにすることを提案している。これにより、ユーザーは少ない費用でより質の高いアフターサービスを受けたり、事業を効率化することが可能になる。産業機器の機能に関するデータを共有できるようになれば、工場や建設現場などで運転サイクルや生産ライン、サプライチェーンの管理を最適化できる。また、中小企業は最低限のコストでデータにアクセスできるようになり、データ共有に関して強い交渉力を持つ大企業と不公平な契約を結ぶ必要がなくなる。

ロイター通信によると、欧州委に法案の見直しを求める書簡を送ったのは、SAPとシーメンスのほか、画像診断装置などの医療機器を製造するシーメンスヘルシニアーズ、医療用ソフトの開発を手がけるブレインラボ、経理システムや会計ソフトを展開するDATEVのドイツ企業5社と、情報通信技術(ICT)関連の業界団体デジタルヨーロッパのトップ。「中核の技術ノウハウや設計データを含むデータについて、ユーザーや第三者との共有を義務付けることで、EU企業は事実上、第三国の競合他社にデータを開示しなければならなくなり、競争力の低下を招く恐れがある」と指摘。データ共有によって企業秘密が危険にさらされる場合は、第三者からのアクセス要求を拒否できるルールを設けるよう求めている。

欧州委の報道官は書簡を受領したことを認めたうえで、企業秘密の重要性は理解しているが、データ共有を拒む口実に使うべきではないと指摘。「機密情報の保護とデータ共有のバランスを取る必要があり、それこそがデータ法を整備する目的だ」と強調した。

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