2010/5/10

総合 –EUウオッチャー

英総選挙・保守党勝利も過半数届かず、連立交渉が焦点に

この記事の要約

英国で6日に実施された総選挙(下院定数650、任期5年)では、野党第一党の保守党が306議席(得票率36%)を獲得して勝利を収め、与党労働党は258議席(同29%)と改選前から87議席を減らし、大敗を喫する結果となった。 […]

英国で6日に実施された総選挙(下院定数650、任期5年)では、野党第一党の保守党が306議席(得票率36%)を獲得して勝利を収め、与党労働党は258議席(同29%)と改選前から87議席を減らし、大敗を喫する結果となった。ただ、保守党の獲得議席数が過半数の325に達しなかったことから、1947年以来の「ハング・パーラメント」(宙ぶらりん議会)状態となった。第三党で中道左派の自由民主党(議席数57、同23%)が連立による新政権樹立のカギを握ることになった。閣僚ポストを獲得すれば、自民党にとっては戦後初の政権参画となる。

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保守党は選挙結果の確定後、影の閣僚らからなる連立交渉担当チームを組織、8日から自民党幹部との協議を開始した。デビッド・キャメロン党首も自民党のニック・クレッグ党首と電話会談を含め3回にわたって直接協議。会談は「友好的な雰囲気のなかで進められた」と伝えられる。連立について両氏は10日までに、「非常に前向きで建設的な話し合いを進めている」とコメント。クレッグ氏は、「困難な経済状況に直面する英国のため、自民党が建設的な役割を果たしたい」としている。

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9日に6時間近くにわたって内閣府で協議した両党幹部によると、交渉の主な議題となっているのは経済政策。保守党のウィリアム・ヘイグ影の外相と自民党のダニー・アレクサンダー元影の労働厚生相は協議後にそれぞれ記者団に対し、「経済の安定と財政赤字の削減、金融規制を中心に主要な政策分野に関して協議した」と述べた。両氏によると、このほか教育、環境、市民の自由について話し合いが行われたもよう。合意に至るまで、今後も断続的に協議を継続するとみられる。

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一方、クレッグ党首は労働党のブラウン首相とも2度にわたって電話協議し、9日午後には外務省で短時間の会談を行った。成文憲法がない英国では、第一党になった党の党首が自動的に首相になるとの規定はなく、現職の首相が辞任をしない限り、新たな首相は誕生しない。また、慣例ではハング・パーラメントの場合、現職の首相に組閣の主導権が認められる。しかし今回は、クレッグ氏が開票直後に「最多数の得票を得た党に政権作りの権利がある」と主張したことや、選挙に負けた首相が組閣に踏み切ることへの道義的正当性を疑問視する声が上がったことから、ブラウン首相は当面、保守・自民両党の連立協議の行方を見守る姿勢を示している。ただ、自民党が従来から求めてきた選挙制度改革について、保守党議員の多くが政権運営の安定を理由に現行制度を維持すべきとの考えを示している一方、ブラウン首相はすぐにも改革の是非を問う国民投票を実施する用意があると表明、自民党に連携を呼びかけている。

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自民・保守両党の妥協が焦点

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連立交渉が不調に終われば、保守党は自民党との連立ではなく政策ごとに協調する閣外協力にとどめ、少数与党政権を率いることも視野に入れているとみられる。また、単独過半数の獲得を狙って1年以内に再び解散・総選挙に踏み切る可能性もある。

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キャメロン党首は当初、欧州各国の財政問題を巡って金融市場が不安定な動きを続けているうえ、英国の選挙結果を受けてポンドが急落したこともあり、市場の取引が再開される10日までに政権協力に関する大枠で自民党と合意したい意向を示していた。しかし、両党は財政再建策や選挙制度改革などについて政策に大きな隔たりがあり、合意に時間がかかるのは必至だ。税制改革、教育および貧困層支援向けの政府補助の強化、低炭素経済への移行、IDカードの廃止など、方向が一致する政策もある一方で、EUとの関係のあり方や移民政策に関する両党の違いは非常に大きい。更新時期が近づく核ミサイルシステム、トライデントについても、自民党は廃止を主張するが、保守党は更新・維持の方針だ。

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選挙直後、両党連立の可否を左右する最大の焦点と見られた選挙制度改革については、自民党は従来、二大政党に有利とされる単純小選挙区制から比例代表制への移行を訴えてきた。英国では選挙区で得票数が最も多かった候補一人だけが当選となり、有力政党に有利な仕組みだ。二大政党政治を支えてきたシステムだが、小党にとっては死票が出やすく、自民党は得票率からみて数ない議席数に悩まされてきた。今回も、自民党の得票率は23%で前回選挙から1%伸びたにもかかわらず、獲得議席数は5議席減った。労働党との得票率の差は6%だが、議席数は労働党の258に対し57と大差がついている。クレッグ党首はこの結果について、「国民の希望や情熱を反映していない」と批判。また、調査会社ユーガブが選挙後に行った世論調査によると、回答した国民の62%は比例代表制を導入すべきとしている。

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