2010/5/17

産業・貿易

米との航空機補助金紛争、EUが「前提条件なし」の交渉開始を要求

この記事の要約

欧州委員会のデフフト委員(通商担当)は11日、欧州の航空機大手エアバスと米ボーイングへの補助金をめぐるEUと米国の対立に関連して、紛争解決に向けた無条件での交渉開始を米側に呼びかけた。世界貿易機関(WTO)紛争処理小委員 […]

欧州委員会のデフフト委員(通商担当)は11日、欧州の航空機大手エアバスと米ボーイングへの補助金をめぐるEUと米国の対立に関連して、紛争解決に向けた無条件での交渉開始を米側に呼びかけた。世界貿易機関(WTO)紛争処理小委員会(パネル)は6月中に米政府によるボーイングへの補助金について最終報告をまとめる見通しとなっており、交渉開始はその後になるとみられていたが、EU側はWTOの裁定を待たずに交渉をスタートさせたい意向を示している。

\

WTOを舞台とする通商紛争で焦点となっているのは、エアバスとボーイングの新たな主力旅客機「A380」と「787(通称ドリームライナー)」の開発に関連した支援策。航空機市場で急速にシェアを拡大し、ボーイングと肩を並べる企業に成長したエアバスが依然としてEUから公的補助を受けているのはWTOの協定に違反するとの米側の主張に対し、EUはボーイングも公的支援を受けて開発した軍用機向けのテクノロジーを活用してドリームライナーの開発を進めており、これは米政府による間接的な補助金にあたると反論。双方は2004年10月、両社に対する支援策は不当な補助金にあたるとして相次いでWTOに提訴した。

\

WTOパネルは今年3月、EUによるエアバスへの補助金を違法とする最終報告をまとめた。報告書は公表されていないが、英国、フランス、ドイツ、スペイン政府による開発援助の一部が輸出補助金にあたると認定されたもよう。ひとまず米国の主張が認められた形だが、アナリストらの間ではボーイング向けの補助金についても違法性が認定されるとの見方が有力だ。

\

デフフト委員は訪問先のワシントンで米通商代表部(USTR)のカーク代表らとの会談後、記者団に対し、問題の解決に向けて「前提条件なしに交渉を開始すべきだ」と発言。「WTOパネルの裁定を待たなければならないとすれば、それ自体が前提条件になる。EUとしてはただちに交渉をスタートさせたい」と述べ、「今後数週間以内」の交渉入りを目指す意向を示した。これに対し、USTRのマクファーソン報道官は「いつでもEUおよびEU加盟国との交渉に入る準備はできているが、WTOルールとの整合性に欠けるすべての民間航空機への補助金について話し合う必要がある」と指摘。EU主要国がエアバスの次期旅客機「A350」に対して開発援助を行う方針を打ち出している点を暗に批判した。

\

A350はドリームライナーの対抗機種としてエアバスが開発を進めている次世代中型旅客機。同機種は米国によるWTOへの提訴の対象になっていないため、エアバスはEU加盟国による開発支援は違法ではないと主張している。米政府はこれに対し、WTOへの提訴後にスタートしたA350の開発プロジェクトにもパネル裁定の効力が及ぶと指摘。同機種への補助金はWTOルールに違反すると警告している。デフフト委員はこの点について「問題は補助金を交付せずに大型航空機の開発が可能かどうかということだ。実際にはエアバスもボーイングも補助金なしでは開発計画を進めることはできない。したがって双方が許容範囲を理解する必要がある」と強調した。

\