2010/7/26

総合 –EUウオッチャー

ストレステスト「不合格」は7行のみ、査定基準を疑問視する声も

この記事の要約

EU加盟国の銀行監督当局で構成する欧州銀行監督委員会(CEBS)は23日、域内20カ国の91銀行を対象に実施した健全性審査(ストレステスト)の結果を公表した。株価や国債相場が予想外に下落するなど厳しい市場環境に陥った場合 […]

EU加盟国の銀行監督当局で構成する欧州銀行監督委員会(CEBS)は23日、域内20カ国の91銀行を対象に実施した健全性審査(ストレステスト)の結果を公表した。株価や国債相場が予想外に下落するなど厳しい市場環境に陥った場合、スペインの貯蓄銀行など7行で2011年末時点の自己資本比率が6%を下回る「資本不足」の恐れがあると認定。不足額は総額35億ユーロと査定した。事前には10行以上が資本不足と認定され、不足額は最大750億ユーロに達するとの見方が出ていたが、実際には予測を大幅に下回る結果となった。ただ、市場では査定基準の甘さを指摘する向きもあり、審査結果が信用不安の解消につながるかどうかは予断を許さない。

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今回の審査では◇2010-11年にかけてEU経済がマイナス成長に転落する◇株式市場が2年連続で20%下落する◇銀行が保有するギリシャ、スペイン、ポルトガル国債(各5年物)の価値が09年末時点よりそれぞれ23.1%、12.3%、14.0%下落する――といったシナリオを想定。「20年に1度」の厳しい市場環境の中で、余剰金や普通株などを中心とした各銀行の中核的自己資本(Tier1)がどの程度減少するかを査定した。

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その結果、カハスールなどスペインの貯蓄銀行5行、ドイツのヒポ・リアルエステート、ギリシャ農業銀行が資本不足の恐れがあるとみなされた。一方、残る84行はCEBSが健全性の認定基準とした6%の自己資本比率を上回るとしてひとまず審査に「合格」したが、スペインやギリシャなどソブリンリスクを抱える国ではかろうじて基準をクリアした銀行が目立つ。CEBSは最悪のシナリオになった場合、91行の資本不足額は5,660億ユーロに達するとの予測を示した。

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市場では審査基準を疑問視する声が出ている。特に問題となっているのは国債の損失リスクの査定方法。EUはユーロ導入国が財政危機に陥った場合に備えて最大7,500億ユーロの緊急融資制度を創設しており、ギリシャに加え、仮にスペインやポルトガルなどが財政危機に陥ったとしても、デフォルト(債務不履行)に至ることはないとの立場を強調している。このためCEBSは国債の損失リスクについて、売買目的の場合のみを査定の対象とし、銀行が満期まで保有する国債は全額償還される前提で査定対象から除外した。しかし、モルガンスタンレーの調査によると、銀行が保有するギリシャ国債のうち、短期売買用のトレーディング勘定に含まれているのは10 %程度とみられることから、市場ではEUがギリシャ国債の損失リスクを過小評価しているとの批判が出ている。

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今回、ドイツでは14行が審査の対象となり、最悪のシナリオでヒポ・リアルエステート の自己資本比率が4.7%に低下すると査定された以外、経営不安が指摘されている州立銀行を含めてすべて基準をクリアした。ドイツ連銀によると、ヒポ銀の資本不足は12億5,000万ユーロと査定されており、同行はただちに公的資金による増資を行う方針を表明した。一方、スペインでは27行が審査の対象となり、「カハ」と呼ばれる貯蓄銀行5行が資本不足と指摘された。5行の不足額はおよそ20億ユーロに上り、スペイン中央銀行首脳は各行にまず自力での増資を要請し、資金調達が困難な銀行については年末をめどに公的資金の投入に踏み切る方針を示している。また、同じく不合格となったギリシャ農業銀行の資本不足は2億4,260万ユーロと試算されており、同行の株式77%を保有するギリシャ政府が増資を引き受けるものとみられる。

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今回の審査で基準をクリアした銀行の間でも資本増強の動きが出始めている。審査結果の公表に先立ち、ギリシャ・ナショナル銀行が4億5,000万ユーロの増資を発表したほか、スロベニアのNLBも増資計画を打ち出している。

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CEBS、欧州中央銀行(ECB)、欧州委員会は審査結果について共同で声明を発表。「ストレステストで用いた最悪のシナリオは仮定として策定されたもので、現実に起こる可能性が極めて低い厳しい条件に基づいている。したがって今回の審査により、マクロ経済および財政上のネガティブ要因に対するEU銀行システムの回復力が確認された。これは市場の信頼回復に向けた重要な一歩だ」と強調した。

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