2011/3/7

競争法

米大手映画会社への調査打ち切り、デジタル化推進事業の見直し受け

この記事の要約

欧州委員会は4日、米国の大手映画会社が欧州における映画館のデジタル化事業に関する契約条項を変更したことを受け、競争法違反の調査を打ち切ったと発表した。欧州委は独自に行った予備調査から、米国の映画会社がデジタル化促進プログ […]

欧州委員会は4日、米国の大手映画会社が欧州における映画館のデジタル化事業に関する契約条項を変更したことを受け、競争法違反の調査を打ち切ったと発表した。欧州委は独自に行った予備調査から、米国の映画会社がデジタル化促進プログラムを担う仲介業者と結んでいる契約により、中小の配給会社がデジタル映写機(DCP)を備えた映画館で作品を上映できなくなる可能性があるとの見解をまとめ、米側に契約内容の見直しを求めていた。

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映画館のデジタル化により、フィルムの複製や輸送などのコストが大幅に削減され、フィルム劣化による画質の悪化も防ぐことができるが、デジタル上映システムの導入には多額の費用がかかる。このため、米国ではデジタル化推進策として、映画会社と映画館が共同で投資コストを負担する「バーチャルプリントフィー(VPF)」と呼ばれるスキームが定着している。

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これはまず、VPFサービサーと呼ばれる仲介業者がDCPを一括購入し、映画館と個別に契約を結んでDCPを供給。映画会社はデジタル化により不要となったフィルムの現像や配送などのコストをDCPの普及に役立てるため、DCPで自社作品が上映されるたびにVPFサービサーにVPF、すなわち「仮想複製料」を支払う仕組みだ。DCP購入費の大部分は映画会社が支払うVPFで賄われるため、映画館側はわずかな初期費用でデジタル上映システムを導入することができる。米国の大手映画会社によって数年前から欧州にもDCPの普及促進を目的とするVPFスキームが導入され、2012年末までに域内全体の約50%にあたる1万8,000スクリーンがデジタル化される見通しになっている。

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欧州委が問題視していたのは、米国の映画会社とVPFサービサーの間の契約。大半の契約に、VPFサービサーに支払う料金を他の映画会社より低く設定するなど、契約主体の映画会社に有利な条件が盛り込まれているため、VPFサービサーは事実上、独立系制作会社などの作品を扱う中小の配給会社と同スキームに関する契約を結ぶことができなかった。欧州委はデジタル化推進の観点からVPFスキームの有効性を認めながらも、現行システムの下では低予算のアート作品などが市場から締め出される可能性があるとして、米国の映画会社に是正を求めていた。具体的にどのような改善策が提示されたかは不明だが、欧州委は契約条項の修正により、中小の配給会社もハリウッド映画の配給会社と同じ条件で同スキームを活用することが可能になると説明している。

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