西欧諸国では強力な温室効果ガス「HFC-23」の排出レベルが、各国政府から提出されたデータを基に欧州委員会がまとめた統計値のおよそ2倍に上る可能性が出てきた。米国地球物理学連合(AGU)発行の学術誌「ジオフィジカル・リサーチ・レターズ」最新号に掲載されたスイス連邦材料科学・技術研究所(Swiss Federal Laboratories for Materials Science and Technology)のリポートで明らかになった。
\HFC23は冷凍・冷房用冷媒などに使われる代替フロンの一種「HCFC-22」の製造過程で排出され、二酸化炭素(CO2)に比べて1万5,000倍近い温室効果がある。材料科学研がEU主要国で2008年7月-10年7月のHFC-23排出量の調査を行ったところ、実際の排出レベルは欧州委が公表している09年度のデータに比べて60-140%も高いことが分かった。欧州委の統計によると、今回の調査対象となった6つの施設で09年に排出されたHFC-23はCO2換算で合計150万トンとなっているが、実際には最大360万トンが排出された計算になる。
\リポートによると、公式データとの乖離が最も大きかったのはイタリアで、たとえばベルギーの医薬・化学大手ソルベイのミラノ工場からはイタリア全体の年間排出量の10-20倍に上るHFC-23が排出されていることが明らかになった。このほかイネオスとアルケマの工場がある英国とオランダでも、実際のHFC-23排出量が統計の水準を大幅に上回っている。
\HCFC-22はオゾン層破壊物質としてモントリオール議定書で段階的廃止が決定しており、その副産物であるHFC-23の回収・分解事業を京都議定書が規定するクリーン開発メカニズム(CDM)のプロジェクトとして認めるべきか否かについて国際的な議論が続いている。EUではEU排出量取引制度(EU-ETS)の見直しを進めるなかで、産業用ガスのうち特に温室効果が高いHFC-23と亜酸化窒素(N2O)の回収・分解事業を通じて取得したクレジットに関しては、2013年5月1日以降、EU-ETSの参加企業が削減実績に組み入れることを禁止する方針を決めている。
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