2011/10/3

総合 –EUウオッチャー

EUと旧ソ連6カ国が首脳会議、民主化後退でFTA戦略に進展なし

この記事の要約

EUと旧ソ連6カ国の首脳会議が9月29~30日にポーランドのワルシャワで開かれ、EU側からベラルーシやウクライナにおける人権侵害や民主化路線の後退に対する強い懸念が表明された。今回の首脳会議はEUと東方近隣諸国の関係強化 […]

EUと旧ソ連6カ国の首脳会議が9月29~30日にポーランドのワルシャワで開かれ、EU側からベラルーシやウクライナにおける人権侵害や民主化路線の後退に対する強い懸念が表明された。今回の首脳会議はEUと東方近隣諸国の関係強化を目指す「東方パートナーシップ」の2回目の会合で、自由貿易協定(FTA)の締結交渉やビザ(査証)取得の円滑化が中心的な議題になるはずだった。しかし、独裁政権に対するEU側の非難に抗議してベラルーシが会議をボイコットするなど想定外の事態が生じ、具体的な成果が得られないまま2日間の日程を終えた。

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東方パートナーシップは2008年にポーランドが提唱し、従来の「欧州近隣政策(ENP)」に代わる枠組みとして09年に発足したイニシアチブ。ウクライナ、グルジア、アルメニア、アゼルバイジャン、モルドバ、ベラルーシを対象に、EUが6カ国の民主化や経済改革を支援して貿易自由化、旅行者の自由な往来、エネルギー分野などで連携を強め、同地域の安定維持を図るのが狙いだ。EUは08年にウクライナとの間でFTA交渉を開始し、年内の妥結を目指している。また、モルドバおよびクルジアとも年内に交渉を開始したい意向で、首脳会議ではこうした方針を宣言に盛り込む予定だった。

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しかし、ウクライナでは「オレンジ革命」を主導したティモシェンコ前首相がロシアとの天然ガス取引をめぐる職権乱用罪に問われて公判中。EUは政敵を排除したいヤヌコビッチ現首相の政治的意図が働いているとの見方を強め、実刑判決が出た場合は双方の関係に悪影響を及ぼすと警告していたが、検察当局は首脳会議の直前に前首相に禁錮7年を求刑。判決を控えて前首相の支持者らによる抗議活動が続いている。EUのファンロンパイ大統領は引き続きFTA交渉の年内妥結を目指す方針を明らかにしたうえで、公正で独立した司法制度の必要性を改めて強調し、EUとして公判の行方を注視する考えを示した。

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一方、ベラルーシとの関係では、EUは昨年12月の大統領選挙での反政権派弾圧を非難し、首脳会議には「欧州最後の独裁者」と称されるルカシェンコ大統領の代わりに外相を招く異例の措置を取った。これに対し、ベラルーシ側は「前例のない差別だ」などと強く反発。ホスト国ポーランドに会議のボイコットを通達。首脳会議は宣言の中で「人権、民主主義、司法制度が脅かされているベラルーシの現状を深く憂慮する」と表明した。ただ、ポーランドのPAP通信によると、同国のトゥスク首相は公正な議会選挙の実施やすべての政治犯の釈放などを条件に、深刻な経済危機にあるベラルーシへの支援策として新たな基金の創設を提案したもようで、宣言にも引き続き民主化や経済改革を支援するEUの立場が盛り込まれた。

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