2013/6/3

総合 –EUウオッチャー

英の社会保障制度はEU市民を「差別」、欧州委が欧州裁に提訴へ

この記事の要約

欧州委員会は5月30日、英国が自国に定住している他のEU加盟国の市民に対し、自国民より厳しい社会保障給付の支給条件を設けているのはEU法に違反するとして、英政府をEU司法裁判所に提訴すると発表した。欧州委は2011年9月 […]

欧州委員会は5月30日、英国が自国に定住している他のEU加盟国の市民に対し、自国民より厳しい社会保障給付の支給条件を設けているのはEU法に違反するとして、英政府をEU司法裁判所に提訴すると発表した。欧州委は2011年9月、英政府に対して自国民以外のEU市民に対する差別的な扱いを廃止するよう正式に要請したが、英側から何ら改善策が示されなかったため、法的措置に踏み切る。

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従来、社会保障政策についてはEUではなく、加盟国が権限を持つ領域とされてきたが、域内における人の自由移動を支援し、域内全体で経済活性化を図る取り組みの一環として、EUは2009年に各国の社会保障制度を調和させるための規則を採択。加盟国の市民が域内の他の国に定住する場合、居住国の市民と同じ条件で一定の社会保障を受けられる制度が導入され、定住者の認定基準(居住期間や雇用状況など)も統一された。

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しかし、英政府は独自に外国人に対して居住権を認めるための試験(right to reside test)を課しており、他のEU加盟国の市民もこの試験に受からないと定住者と認定されず、児童手当、失業手当、扶養控除などEU規則が定める社会保障給付を受けることができないのが実情。欧州委によると、英政府は09年-11年に自国以外のEU加盟国の市民から申請された約4万2,000件の社会保障給付のうち、2万8,400件について認定を却下している。欧州委はこうした扱いは他のEU加盟国の市民に対する「不当な差別」であり、英国の現行制度は07年のEU規則に違反すると指摘している。

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英政府は今回の動きを受け、「わが国の社会保障制度を守るため徹底的に戦う」との声明を発表。より整備された他国の社会保障制度を目当てに域内を移住する「社会保障ツーリズム」の横行を防ぐには一定の制限が必要であり、居住権テストはそのための「極めて重要かつ公正な手段だ」と反論している。

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