2013/7/15

産業・貿易

銀行破綻処理の一元化案を提示、欧州委に最終決定権

この記事の要約

欧州委員会は10日、域内銀行の破綻処理を一元化する制度の具体案を発表した。破綻処理を統括する「破綻処理委員会」が問題のある銀行の処理について協議するが、最終決定権は欧州委が握り、新たに創設する統一基金を活用して処理を進め […]

欧州委員会は10日、域内銀行の破綻処理を一元化する制度の具体案を発表した。破綻処理を統括する「破綻処理委員会」が問題のある銀行の処理について協議するが、最終決定権は欧州委が握り、新たに創設する統一基金を活用して処理を進める。15年1月からの実施を目指す。

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破綻処理の一元化は、EUが進める「銀行同盟」創設構想の第2段階となるもの。第1段階となる銀行監督の欧州中央銀行(ECB)への一元化は決まっており、2014年下期に実施されることになっている。第3段階である預金保険制度の一本化は、また本格的な協議が始まっていない。

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EUは6月末の首脳会議で、破綻処理一元化の前段階で、各国が主体となって進める処理手続きに関する共通ルールで合意した。しかし、本丸となる破綻処理を統括機関に一元化する「単一破綻処理メカニズム(SRM)」と呼ばれる制度の創設については先送りし、欧州委の提案を待って協議することになっていた。

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欧州委の提案では、欧州中央銀行(ECB)が監督対象となる域内の約6,000銀行の中で問題が浮上した場合に警告を行う。これを受けて破綻処理委員会が対象銀行の経営状況を精査し、救済するか、閉鎖するかを判断し、処理計画を欧州委に勧告する。最終的には欧州委が判断し、統一基金の活用を含めた処理計画を決定。これを対象国が破綻処理委員会の監視下で実施することになる。

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破綻処理委員会は、ECB、欧州委の代表と、対象国の当局者で構成される。その決定は全会一致ではなく多数決となるため、問題の銀行がある国の代表による拒否権発動は封じられる。

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破綻処理の統一基金は、銀行同盟に参加するユーロ圏18カ国および自主的に参加する非ユーロ圏の銀行が、預金保険でカバーされている預金の1%に相当する額を拠出して創設される。当初の規模は約550億ユーロとみられるが、10年をかけて段階的に増強する。運用は破綻処理委員会が受け持つ。同委員会は金融市場で銀行の資産を担保に資金を調達することができる。

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銀行を救済する場合については、先ごろ合意した各国の破綻処理手続きと同様の原則に基づき、統一基金の活用は例外的状況に限られ、まず該銀行の株主、債券保有者に負担させる。それでも足りない場合に、統一基金の資金を投入する。

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ただ、基金創設には時間がかかるため、始動は2018年以降となる見通し。それまで新制度は同基金に頼らない運営を迫られることになる。

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破綻処理の一元化をめぐっては、ドイツがEUに権限が委譲されることに難色を示しており、先の首脳会議でも突っ込んだ協議は行われなかった。欧州委はドイツに配慮して、危機に陥った銀行に統一基金が資本を注入しても不十分な場合、対象国の財政負担で追加資金を注入することを指示する権限は持たず、対象国の判断に委ねることにした。それでもドイツ政府の報道官は同日、欧州委が同権限を持つことはEU基本条約から逸脱するもので、条約改定が必要になるとして反発した。

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こうした一元化に対するドイツの姿勢には、9月に総選挙を控えるメルケル首相が、国内銀行が統一基金に拠出する基金が他の加盟国の銀行救済に使われることへの国内世論の反発を考慮したものとみられる。

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これに対して欧州委のバルニエ委員(域内市場・サービス担当)は、欧州委が破綻処理で決定権を持つことは、EUの域内市場統合ルールに沿ったもので、現行基本条約の枠内にあると反論。条約改定には時間がかかり、待つ余裕がないことから、同方式での早期実施を選んだと述べた。また、これまでの金融・債務危機でも欧州委が対応を主導してきたことに触れ、同役割を担うには欧州委が最適の機関だと主張した。

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欧州委は今回の提案について、年内に加盟国の承認を取り付けた上で、欧州議会の任期が切れる来年3月までに議会も通過させ、2015年1月1日から破綻処理委員会を始動させることを目指す。

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