欧州委が電力市場改革法案を発表、ガス価格との連動低減へ長期契約推進

欧州委員会は14日、電力の市場価格を安定化させるための電力市場改革案を発表した。急激な価格変動から消費者を保護し、安定供給を確保しながら再生可能エネルギー由来の電力利用を推進する。電気料金が短期的な化石燃料の価格に大きく依存する現行システムを改善することで、エネルギーコストの予測可能性を高め、域内産業の競争力を強化する狙いもある。今後、欧州議会と閣僚理事会で改革案について討議する。

欧州では2021年夏以降、エネルギー価格が上昇していたが、22年2月のロシアによるウクライナ侵攻を機にかつてない水準まで高騰し、EU域内の企業や家計に深刻な打撃を与えた。昨年8月をピークに、その後は下落に転じたものの、国際情勢の変化などによって再びエネルギー価格が高騰する可能性もある。欧州委はこうした中で、エネルギー主権の確立と50年までの気候中立化を実現するため、電力市場の抜本的な改革に取り組む方針を打ち出していた。

EU電力市場の問題点として、電力料金が実質的に天然ガス価格と連動しているため、再生可能エネルギー由来の電力は発電コストが比較的低いにもかかわらず、消費者はその恩恵を受けられていない点が挙げられる。今回の改革案には、電力価格とガス価格の切り離しなど、価格決定のメカニズムを直接的に変更する内容は盛り込まれていないが、欧州委は電力料金の高騰を防ぎ、価格を安定化させるため、ガスより安価な再エネの発電コストを電力価格に反映させる仕組みを構築する必要があると指摘している。

改革案は域内の企業が急激な価格変動に直面するリスクを減らすため、電力購入契約(PPA)など、より安定した長期契約を推進する。PPAは発電事業者や小売電気事業者と需要家の間で結ばれる電力購入契約で、契約期間は5年から20年と長期にわたるものが一般的。PPAで再エネなど非化石電源による電力を購入することで、企業はガス価格に左右されず、長期にわたり安定的に電力供給を受けることができる。ただ、現状では企業の信用リスクなどが障害となって契約を締結できないケースがある。このため加盟国に企業が市場ベースの保証を受けられるようにするなどの対策を求め、PPAの活用を推進する。

また、再エネ発電などの新規投資に公的支援を行う際、2方向の差金決済契約(Contracts for Difference=CfD)を採用するよう加盟国に義務付ける。CfDは発電事業者の投資リスクを減らすため、再エネ電力の市場価格がストライクプライスと呼ばれる買取最低価格を下回った場合、政府が差額を補填する制度。欧州委は最低価格に加えて上限価格を設定し、市場価格が上限を上回った場合は発電事業者が政府に差額を支払い、それを企業や一般家庭に還元する仕組みの導入を提案している。

一方、消費者を急激な価格変動から保護するため、契約の選択肢を増やし、長期的に固定価格で電力供給を受けられるようにすると同時に、価格変動型の契約も結べるようにする。また、緊急時には加盟国が中小企業や一般家庭向けの電力小売価格を規制できるようにするほか、加盟国に対し電気料金が払えない消費者に対する救済措置の整備を義務付ける。

上部へスクロール