ギリシャのチプラス首相は20日、自身の辞任と総選挙実施を表明した。EUから新たな金融支援を受けるため、公約に反して財政緊縮策の継続に応じたことで与党内の結束が揺らぐ中、EUとの合意について国民に信を問い、造反議員を締め出して政権基盤を強化する狙いがある。総選挙の日程は未定だが、9月20日に実施される見通しだ。
チプラス首相はテレビ演説で、金融支援を取り付けるためのEUとの合意は、望んだ内容とはならなかったものの、債務危機打開に向けた「最善」のもので、これによって苦境に終止符が打たれたと強調。「みなさんの判断を仰ぎたい」と述べ、議会の解散、総選挙に踏み切る意向を表明した。
チプラス首相率いる左派・急進左派連合(SYRIZA)は1月の総選挙で、前政権がEUなどから金融支援を受ける条件として推進してきた厳しい緊縮策の放棄を掲げて勝利。新政権は財政再建策の見直しを求めてEUとの交渉を開始した。しかし、EU側が緊縮策の継続で譲らず、融資の再開を拒否したことから、ギリシャは債務返済に必要な資金を調達できず、6月末にデフォルト(債務不履行)に陥った。
それでもチプラス首相は強硬姿勢を崩さず、7月初めにはEU側が求める財政緊縮策の受け入れの可否を問う国民投票まで実施し、民意を盾にEUに譲歩を迫ったが、折り合いが付かず、財政と金融システムが危機的状況に陥ったため、ユーロ圏の金融安全網である「欧州安定メカニズム(ESM)」から最大860億ユーロに上る第3次支援を受ける代わりに、財政再建を柱とする構造改革を実施することで7月中旬に合意。ESMは20日、第1弾として130億ユーロの融資を実行し、ギリシャは同日に期限を迎えた欧州中央銀行(ECB)に対する約32億ユーロの国債を償還した。
ただ、与党内ではチプラス政権がEUに屈し、公約に反して年金削減など厳しい緊縮策を進めることへの批判が多く、関連法案採決時には多くの議員が造反した。政権運営には野党の協力が不可欠な状態となっている。このため首相は、ESMの初回融資実施によって同日に向こう2カ月間の資金需要が満たされたことを機にいったん退陣し、総選挙に打って出ることを決めた。国民の信任を取り付けると同時に造反派を排除し、安定した政権基盤を築くことを目指す。
公約を覆してEUとの合意を迫られたチプラス首相だが、国民の間では危機打開のため懸命に努力したとして評価され、依然として高い人気を誇っており、7月末の世論調査では支持率が6割に達した。急進左派連合の支持率も3割以上とトップを維持している。9月20日の実施が見込まれる総選挙でも優勢とみられる。急進左派連合単独での政権樹立は困難な見通しだが、その場合も親EU派の最大野党・新民主主義党(ND)との連立政権樹立が濃厚で、いずれにせよEUに約束した改革を実行する体制が整うことになる。欧州委員会のユンケル委員長は同日、ギリシャの総選挙実施について「ESMの支援プログラムへの支持を強めるための方策だ」と歓迎する意向を表明した。