欧州委員会は1月28日、多国籍企業の課税逃れを防止するための法案を発表した。経済協力開発機構(OECD)が昨年10月にまとめた国際的な新ルール「税源浸食と利益移転(BEPS)行動計画」に沿って関連法の整備を進め、低税率国やタックスヘイブン(租税回避地)への利益移転など、広く用いられている手法による課税逃れを封じ込める。ただ、多国籍企業による行き過ぎた節税策を防ぐには国際的な連携が不可欠なため、産業界からはEUが先走って規制を強化することで、欧州企業の競争力低下を招く事態を懸念する声も上がっている。
OECDの試算によると、税制の抜け穴を利用した多国籍企業の節税策によって世界全体で年間1,000億~2,400億ドルに上る法人税の税収が失われている。一方、欧州議会によると、欧州では年間に最大700億ユーロの税収が失われているという。欧州委のモスコビシ委員(経済金融問題・税制・関税担当)は「本来であれば学校や病院などの公共サービスや雇用対策などに充てるべき巨額の税収が毎年失われており、結果的に善良なEU市民や企業が高い税金を納めている。こうした状況はとうてい容認できず、断固とした措置を講じなければならない」と強調。ドムブロフスキス委員(ユーロ・社会的対話担当)は「企業は実際に経済活動を行っている国で相応の税金を納めなければならない。欧州は課税逃れ対策で世界のリーダーとなり得るが、そのためには加盟国が一体となって行動する必要がある」とコメントした。
欧州委がまとめた「租税回避防止パッケージ(Anti Tax Avoidance Package)」は、典型的な課税逃れのスキームに対抗するための法的拘束力を持つルールを定めた「租税回避防止指令」、税の透明性を高めるため、加盟国の税務当局が多国籍企業の税務情報を共有するシステムの構築を柱とする「税務上の行政協力に関する指令」、さらに第3国との連携強化を図るための「効果的な課税のための対外戦略に関する通達」から成る。
このうち租税回避防止指令(案)によると、最も一般的な課税逃れの手法である低税率国やタックスヘイブンに設立した子会社への利益移転では、移転先の税率が親会社のあるEU加盟国の税率の40%未満の場合、当該加盟国は第3国に移転された利益についても課税対象とすることができる(Controlled Foreign Company=CFCルール)。欧州委はさらに、低税率国にある子会社から融資を受け、過大な利子を支払うことで納税額を圧縮する手法も問題視し、課税所得から差し引くことができる利子負担に上限を設けることを提案している。このほか、域内の拠点で新製品を開発した企業がコストを損金算入して納税額を最小限に抑えながら、利益が出始めると課税対策のため生産施設を第3国に移転するケースを防ぐため、新たに「出国税(Exit Tax)」を導入することなども指令案に盛り込んだ。