難民対策で国境審査の継続準備へ、デンマークは財産没収法案可決

EU加盟国は1月25日、アムステルダムで非公式内相会合を開いて難民問題について協議し、ドイツなどが一時的に復活させている国境審査を最大2年まで延長できるようにするための準備に入るよう欧州委員会に要請した。一方、デンマークでは26日、難民申請者に滞在費を負担させるため、政府が保有財産を没収できる新法が成立した。難民の流入に歯止めをかけるのが狙い。EUが有効な対策を打ち出せないなか、加盟国が個別に難民・移民への規制を強める可能性もある。

EUでは昨秋以降、ドイツ、オーストリア、フランス、デンマーク、スウェーデン、さらに非加盟国のノルウェーが国境審査を復活させている。域内の自由移動を認める「シェンゲン協定」の第26条は、治安などに深刻な脅威がある「例外的な状況」に限り、協定に参加する26カ国が原則6カ月の期限付きで国境審査を再導入し、その後、最長2年まで同措置を継続することを認めている。

ドイツなどは3月に期限を迎えるため、欧州委は今後の推移を見極めたうえで、状況が改善しなければ延長手続きに入り、再導入の条件を満たしているか判断する。実際に延長された場合、シェンゲン協定の発効(1995年)以来、初めてのケースとなり、EUの基本理念である「移動の自由」が大きく揺らぐことになる。

欧州委のベルトラウド報道官は26日、「すぐに難民の流入が治まるとは考えにくく、逆に再び増加に転じる可能性もある。このまま状況に変化がなければ国境審査の延長を認める正当な理由があることになる。シェンゲン協定の規定に基づき、必要な時に適切な措置が取れるよう準備を進める」と述べた。

一方、デンマーク議会が可決した法案は、難民申請者の所持金のうち、1万クローネ(約17万円)を超える現金や所持品(結婚指輪などを除く)を徴収し、滞在施設の使用料などに充てるという内容。このほか、難民認定者がデンマークに家族を呼び寄せることができるまでに要する期間を従来の1年から3年に延ばす規定も盛り込まれている。新法は2月から施行される。

デンマークでは昨年、2万人以上が難民申請を行った。同国は他の北欧諸国と同様、これまで難民や移民を積極的に受け入れてきたが、国民の間で治安の悪化や公共サービスの質低下を懸念する声が高まっていた。昨年6月に発足したラスムセン首相率いる新政権は、難民への支援金を大幅に削減するなど規制強化を進め、1月4日からは南部ドイツとの国境で身分証の検査を実施している。

新法をめぐっては、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が「難民申請者の尊厳を著しく傷つけ、外国人に対する恐怖や嫌悪をあおる恐れがある」と強く非難。人権団体などからも、第2次世界大戦中にナチス・ドイツがユダヤ人に対して行った財産没収を思い起こさせるといった声が上がっている。

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