欧州委員会は7日、欧州への難民や移民の流入に歯止めをかけるため、EUの移民抑制策に協力的な第3国に対して優先的に開発支援を行う新たなプログラムを発表した。EUとトルコの取り決めにより、同国経由で流入する中東からの難民や移民は減少しているものの、地中海を渡ってイタリアなどを目指すアフリカからの密航者が急増している現状に対応するのが狙い。2020年までの5年間に開発支援を目的とするEUの基金から総額80億ユーロを拠出するほか、新たにEU予算と加盟国の拠出金を元手に最大で620億ユーロ規模の「対外投資基金」を創設する。
「新たな協力関係の枠組み」と名づけられたスキームでは、アフリカ諸国のうち、欧州を目指す難民らの出身地や移動ルートにあたるナイジェリア、セネガル、マリ、ニジェール、エチオピアの5カ国が主な支援対象として想定されている。密航業者の摘発や国境管理の強化など、難民や移民の流出を抑えるための対策でEUに協力したり、EU内に不法入国して強制送還された自国民を積極的に受け入れる国への支援を手厚くすることで、船の転覆事故が相次いでいる地中海ルートの密航を防ぐ狙いがある。このほか、トルコに次いでシリア難民を多く受け入れているヨルダンとレバノンも支援の対象となる。
投資基金に関しては、EU予算から31億ユーロを拠出し、加盟国に同額の分担を求める。こうして用意した62億ユーロを元手に民間や外部の公的機関からの投資を募り、310億ユーロの資金を動員して基金を創設。最終的に運用可能な資金規模を最大620億ユーロに拡大したい考えだ。
難民抑制策での協力を経済支援の条件とするスキームは、EUとトルコの取り決めをひな型にしている。EUは3月、新たにギリシャに密航した移民らをトルコに強制送還する見返りとして、EUがトルコの難民対策を後押しするため60億ユーロの資金支援を行うことや、トルコ国民のEUへのビザなし渡航を6月末までに実現することなどで合意。その結果、4月以降はトルコ経由の流入が大幅に減少した。
地中海ルートについてもアフリカ諸国との協力体制を強化して、経済移民らの流入を阻止したい考えだが、EU内では難民対策での協力を支援の条件とすることに批判的な意見も出ており、加盟国が新たな拠出の要請に応じるかは不透明だ。たとえばニジェールは先月、自国を通過する密航者を取り締まる見返りとして、EUに国内総生産(GDP)の7分の1に相当する10億ユーロを要求したとされるが、トゥスク大統領はこうした状況を受け、難民政策が「脅迫」の材料になりかねないと警告している。