欧州委員会は7月27日、EUの財政規律に違反しているスペインとポルトガルへの制裁を見送ることを加盟国に勧告した。両国はルールを厳格に適用すると巨額の制裁金支払いを命じられるはずだったが、欧州委は英国の離脱決定で揺れるEUの結束を維持するため、柔軟に対応することを決定。財政規律をめぐる初の制裁発動は回避される見通しとなった。EU財務相理事会による承認を経て正式決定する。
加盟国はEUの財政規律に基づき、単年の財政赤字をGDP比3%以内に抑えることを義務付けられている。違反した国は過剰赤字是正手続きを適用され、是正を怠れば国内総生産(GDP)の最大0.2%に相当する罰金の支払いを命じられる。
スペインとポルトガルは金融危機の影響で財政が悪化し、2009年から過剰赤字是正手続きを適用されており、スペインは16年、ポルトガルは15年までの是正を求められていた。しかし、両国は14、15年の赤字削減目標を達成できなかったため、欧州委は7月初めに規律違反と認定。加盟国の承認を受けて、制裁手続きに入っていた。
欧州委が制裁を見送ったのは、両国が厳しい経済状況が続く中で財政再建に取り組んできたことを評価したほか、英国のEU離脱が決まった直後に異例の制裁を実施すると、両国で反EUの機運が広がりかねないと懸念したことが大きい。モスコビシ委員(経済・財務・税制担当)は「人々が欧州に懐疑的となっている時期の制裁は逆効果だ。政治的、経済的に最も適切な決定を下した」と述べ、政治的思惑も働いていることを認めた。
欧州委はスペインとポルトガルに対して、制裁を発動する代わりに、新たな財政再建策を10月15日までに提出するよう求めることを決めた。一方、財政赤字をGDP比3%以内に抑える期限をスペインで18年、ポルトガルで16年に延長することも勧告した。同期限はスペインが2年、ポルトガルが1年の延長となる。