欧州委員会のユンケル委員長は1日、EUの将来像に関する白書を発表した。英国が離脱した後の結束維持に向け、望ましい機構運営を模索するもので、特定分野で一部の加盟国が先行して統合を進める「先行統合」の積極的な推進など5つのシナリオを提示している。
この白書は、英国の離脱決定や難民問題への対応をめぐる混乱などでEUの求心力が低下していることを念頭に置いたものだ。シナリオは(1)現状維持(2)通貨統合など単一市場に絞って統合を深化させる(3)先行統合の推進(4)分野を絞り込んで効率的に統合を進める(5)あらゆる分野で加盟国の結束を強める――の5つ。離脱を決めた英国を除く加盟27カ国は、EUの前身である欧州経済共同体(EEC)を設立する条約(ローマ条約)の締結60周年に合わせて3月25日にローマで開く首脳会議で、白書について協議することになっている。
白書は各シナリオの利点、欠点を併記している。例えば、(5)は加盟国がひとつの国家のようにまとまる「欧州連邦」構想に近いもので、意思決定が迅速化するといった長所があるものの、EUに権限が集中し、国家主権が弱まることにリスクがあると指摘。EUが通商、安全保障、移民問題、技術革新など重要分野に集中し、農村開発、雇用など他の分野は各国に委ねる(4)や、単一市場の統合深化だけを目指し、政治統合は断念する(2)では、意思決定がしやすくなるものの、(4)には優先分野の特定が難しいとう問題があり、(2)では国の垣根を越えた重要問題に結束して対応することが難しくなるとしている。
EU基本条約には、加盟国のうち9カ国以上が法案などに賛同すれば、それらの国だけで先行して実施することを認める条項がある。(3)のシナリオは、安全保障、国境管理、税制など特定の分野で積極的に活用し、一部の加盟国が先行して共通政策を実施できる体制を強化するというもの。白書はどのシナリオが望ましいかについて言及していないが、ユンケル委員長自身は先行統合支持派として知られている。