フランスのマクロン大統領は9月26日、パリのソルボンヌ大学で行った演説で、EUの統合深化に向けた機構改革案を発表した。英国の離脱決定、ポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭などで揺れるEUの結束強化を目指したもので、すでに表明していたユーロ圏共通予算の創設に加えて税制の調和、共通の治安部隊や防衛予算の創設などを打ち出した。
これまでにマクロン大統領は、EU予算とは別にユーロ圏共通の予算を創設することや、ユーロ圏財務相会合の議長に代わる「ユーロ圏財務相」、EU版の国際通貨基金(IMF)となる「欧州通貨基金」の創設など、ユーロ圏に絞った機構改革を提唱。これらを大筋で支持する独メルケル首相が総選挙で勝利すれば、直後に具体案を発表する意向を表明していた。
今回の演説ではユーロ圏の改革に加えて◇法人税率の調和◇欧州イノベーション庁の創設◇金融取引税の導入◇緊急事態などに即応するEU共通の治安部隊と共有防衛予算の創設◇テロ対策として諜報要員を育成する機関を創設する◇移民流入を一元的に管理する機関の創設――など。
マクロン大統領は演説で、「欧州はあまりにも弱く、のろく、非効率的になっている」と述べ、機構改革を推進する必要性を強調。改革案に前向きな加盟国の首脳と年内に会談し、実現に向けた協議を進める方針を示した。
改革の大きな柱となるユーロ圏の共通予算は、各国が法人税の税収を拠出して運営されるもので、欧州規模の開発プロジェクトへの投資、経済危機が起きた場合の対応に充てることを想定している。マクロン大統領はメルケル首相と5月に会談した際、同構想を含むユーロ圏の機構改革案に対する理解を取り付けていた。
一連の構想の実現には、フランスと並ぶ大国のドイツの支持を得ることが必要だが、頼みとするメルケル首相は選挙で勝利したものの極右政党の台頭を許し、求心力の低下が懸念されている。与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)との連立政権に加わることが予想される政党からは、共通予算など大胆な改革に批判的な動きも出ており、同問題が連立協議で障害となる可能性もある。このためマクロン大統領は今回、共通予算構想について踏み込んだ発言は避けた。