EU加盟国は11日開いた労働・社会問題担当相会議で、「海外労働者派遣指令」(1996年制定)の改正案を承認した。EU域内の他の国に派遣される労働者が受け入れ国で同業種の労働者と同等の条件で働けるようにすると共に、派遣雇用がコスト面で優位になる状況を改善することに主眼を置いた内容になっている。欧州議会の承認を経て新ルールが導入される。
海外派遣労働者はEU域内に拠点を置く企業に雇用され、他の加盟国に一時的に派遣される労働者を指し、受入れ国で請負業務に従事したり、域内の複数の国で事業展開する企業内での国境を越えた異動、さらに派遣業者が他の加盟国に人材を派遣する場合などが該当する。
現行指令は送り出し企業に対し、派遣労働者に現地の労働法制を適用するよう義務付けており、これには労働時間の上限や休憩時間、最低賃金、有給休暇、職場における安全衛生などが含まれる。しかし、ボーナスやその他の手当てについては規定がないうえ、税金と社会保険料は本国で納める仕組みになっている。このため実際には中東欧からの派遣労働者が現地の労働者より安い賃金で雇用されるケースが多く、ドイツやフランスなどの受け入れ国ではこれが地元の雇用を奪う一因になっているとの指摘がある。
欧州委はこうした現状を踏まえ、海外派遣労働者に支払われる報酬に関して、ボーナスやその他の手当てについても同業種の現地労働者と同じ条件の適用を義務付けると同時に、派遣労働者に対して本国の社会保障制度を適用できる期間を24カ月に制限する規制案を提示した。これに対し、労働市場改革を最優先事項と位置づけるフランスのマクロン大統領は、社会保障制度の適用期間を12カ月に制限するよう要求。一方、大量の派遣労働者を送り出しているポーランドやハンガリーなどは派遣元となる自国企業の競争力低下を懸念して、上限を設定すること自体に強く反発していた。
加盟国は最終的に、派遣労働者に対して本国の社会保障制度を適用できる期間を12カ月に制限したうえで、事前の届出を条件に最大6カ月の延長を認め、その後は受け入れ国のルールに従うことを派遣業者に義務付ける案を承認。トラック運転手など道路輸送部門の派遣労働者に関しては、規制強化に反対する東欧諸国やスペイン、ポルトガルなどの主張を受け入れ、当面は適用除外とすることで合意した。