欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2019/8/26

EU情報

バックストップを離脱協定から削除、英首相がEU大統領に提案

この記事の要約

英国のジョンソン首相は19日、EUのトゥスク大統領(欧州理事会常任議長)に「合意なき離脱」の回避に向けた提案を行ったことを明らかにした。英議会が協定案を承認する上で最大の障害となっているアイルランドと北アイルランドの国境 […]

英国のジョンソン首相は19日、EUのトゥスク大統領(欧州理事会常任議長)に「合意なき離脱」の回避に向けた提案を行ったことを明らかにした。英議会が協定案を承認する上で最大の障害となっているアイルランドと北アイルランドの国境問題をめぐる「バックストップ(安全策)」を協定案から削除し、移行期間中に同問題の最終解決策で合意を目指すという内容だ。しかし、バックストップの削除はEUが拒否する協定案の修正にあたり、EU側は応じない方針だ。

英国とEUは、離脱後も英国領の北アイルランドとEU加盟国アイルランドの間に物理的な国境を設けるのを避け、物流やヒトの往来が滞らないようにすることで合意しているものの、それをどのような仕組みで実現するかは決まっていない。昨年11月に合意した離脱案には、EUを離脱した直後に双方の関係が激変し、貿易などに大きな影響が及ぶのを避けるため2020年12月末まで設けられる「移行期間」中に最終的な解決策で合意できない場合に、期限付きで英国が関税同盟にとどまる「バックストップ」と呼ばれる措置の導入が盛り込まれた。

これについて英国内の離脱強硬派は、バックストップが恒久化されて英国が関税同盟にずっと残留し、EUのルールに縛られることになるとして反発。離脱案が下院の承認を得られず、当時のメイ首相が辞任に追い込まれた。

7月に就任したジョンソン首相は、バックストップの見直しに向けた協定案の修正をEUに求めているが、EU側は拒否の姿勢を堅持している。移行期間中は英国が関税同盟にとどまるなど実質的にEUに残留することになるが、離脱協定を英国が批准しなければ移行期間が適用されないまま10月末に「合意なき離脱」に至り、経済や市民生活に大きな混乱が生じることになる。

ジョンソン首相はトゥスク大統領に宛てた書簡で、バックストップについて、適用期間中は英国がEUのルールに従わなければならないことに触れ、英国の主権を脅かすもので「非民主的だ」と批判。離脱協定から除外した上で、英議会から協定案の承認を取り付け、円滑な形で10月30日に離脱することを提案した。国境問題については、移行期間中に解決策を模索するとしている。

ジョンソン首相の狙いは、懸案のバックストップ問題を先送りすることで、とりあえず合意なき離脱を避け、10月末の離脱後もEUと現状の関係を維持しながら、最終解決に向けた協議を進めることにある。ただ、解決策の具体案は提示していない。

トゥスク大統領は20日にツイッターで、「バックストップはアイルランド島に物理的な国境を設けることを避けるための保険だ」とした上で、「バックストップに反対し、しかも現実的な代替策を提案しないのは、国境復活を支持しているも同然だ」と述べ、ジョンソン首相の提案を拒否。欧州委員会の報道官も同日の記者会見で、バックストップは国境を復活させなという約束を尊重するため、これまでに見つけた唯一の方策だ」として、受け入れない姿勢を示した。

ジョンソン首相は21日から22日にかけて独メルケル首相と仏マクロン大統領と会談。メルケル首相は国境問題の解決案を英国側が30日以内に提示すれば、再交渉に応じる姿勢を示した。

ただ、アイルランドと北アイルランドの国境に税関、入国管理施設などを設けず通関、出入国の管理を円滑に行う方策を見つけるのは至難の業だ。1年半にわたる離脱交渉で同問題を解決できなかったからこそ、暫定的なバックストップ措置の導入が協定案に盛り込まれた。メルケル首相の動きは、ジョンソン首相に譲歩したかに見えるが、バックストップ削除を事実上、突き放した形となる。

マクロン大統領はバックストップの代替案をめぐる交渉に応じる用意はあるが、「代替策はEU単一市場の統合性、分断されるアイルランド島の安定を尊重しなければならない」と発言。合意した協定案から大きくかけ離れた案は見つからないだろう」と述べ、ジョンソン首相の提案に否定的な考えを示した。

ジョンソン首相とトゥスク大統領は25日、フランス・ビアリッツで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)の合間に初の会談を行ったが、双方とも従来の主張をぶつけ合うにとどまり、進展はなかった。

一方、英政府はトゥスク大統領がツイッターでコメントした直後に、同国が9月1日から原則的にEUの会合に出席しないとする声明を発表した。10月末のEU離脱への準備に時間を割くため、安全保障など国益に関する会合にしか参加しないとしている。合意なき離脱を本気で考えていることをアピールし、離脱協定の修正に応じないEUに揺さぶりをかける狙いがあると目される。

さらにジョンソン首相は25日、英国のメディアに対して、合意なき離脱となった場合は、英国が拠出を約束したEU予算の分担金など清算金として390億ポンドを支払う必要はなくなると述べ、EU側をけん制した。