欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2019/9/16

EU情報

ECBが量的金融緩和再開、3年半ぶりの利下げも決定

この記事の要約

ECBは期限を設けず、景気などが回復して利上げを実施できる状況になるまで実施することを明言した。

ECBはユーロ圏の景気と物価を下支えするため、中銀預金金利をマイナスとする措置を14年6月に導入。

ECBのドラギ総裁は7月、追加利下げと量的緩和の再開を検討していることを明らかにしていたため、今回の決定は予想通り。

欧州中央銀行(ECB)は12日にフランクフルトで開いた定例政策理事会で、追加の金融緩和を決めた。米中貿易摩擦などの影響で景気減速の懸念が強まり、物価も上がりにくい状況に陥っているためで、量的金融緩和を再開する。民間金融機関が余った資金をECBに預け入れる際の金利(中銀預金金利)のマイナス幅を拡大する利下げの実施も決めた。利下げは2016年3月以来、3年半ぶりとなる。

ユーロ圏の国債などを買い入れる量的緩和は11月に再開し、毎月200億ユーロ規模の資産を購入する。ECBは期限を設けず、景気などが回復して利上げを実施できる状況になるまで実施することを明言した。中銀預金金利のマイナス幅は0.4%から0.5%に引き下げる。

ECBはユーロ圏の景気と物価を下支えするため、中銀預金金利をマイナスとする措置を14年6月に導入。15年3月には異例の量的金融緩和を開始した。

量的緩和は景気の緩やかな回復が続き、デフレ懸念がなくなったため、2018年12月に打ち切った。しかし、このところ米中貿易摩擦の激化や英国のEU離脱をめぐる混迷で景気が減速傾向にあり、インフレ率も低水準にとどまっている。ECBは同日公表した最新の内部経済予測で、ユーロ圏の19年の予想成長率を1.1%とし、前回(6月)の1.2%から0.1ポイント下方修正。20年は0.2ポイント引き下げ、1.2%とした。インフレ率も19年が1.2%、20年が1%と、それぞれ0.1ポイント、0.4ポイントの幅で下方修正した。目標とする2%を大きく割り込む水準だ。

こうした状況を受けて、ECBは利下げと金融緩和再開に踏み切った。これまで20年半ば以降の利上げを想定していた金利政策についても、インフレ率が目標水準に達することが確実になるまで超低金利を続けることを決めた。

預金金利のマイナス化には預金に“ペナルティー”として手数料を課すことで、民間銀行に余剰資金をECBに預けず、市中に供給することを促す狙いがあるが、銀行の収益悪化を招くという副作用もある。ECBはこの点を考慮し、マイナス金利の適用対象となる預金を一部にとどめることを決めた。

ECBのドラギ総裁は7月、追加利下げと量的緩和の再開を検討していることを明らかにしていたため、今回の決定は予想通り。ただ、昨年末まで3年以上にわたって大規模な量的緩和を実施したことで、買い取り対象となる国債が少ないなど、効果を疑問視する声が出ている。消息筋がロイター通信に明らかにしたところによると、理事会では量的緩和再開に反対するメンバーが複数いたという。

ドラギ総裁も今回の措置では不十分と認識しており、理事会後の記者会見で景気下支えに向けたユーロ圏各国による財政出動の必要性を強調した。