欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2019/10/14

EU情報

英のEU離脱めぐる協議が正念場、首脳会議までの合意なるか

この記事の要約

英ジョンソン首相が提示した新たな離脱案について、EUのバルニエ首席交渉官とバークレイ英離脱担当相が合意に向けた集中協議を11日に開始。

これを受けてEUと英政府は、バルニエ首席交渉官とバークレイ離脱担当相による集中協議を11日から週末にかけて実施することを決め、合意への期待が一気に高まった。

英国では10月19日までに英議会が離脱協定案を承認し、円滑な形で離脱することが決まらなければ離脱期限を2020年1月31日まで延期することをEUに要請するよう政府に義務付ける法案が成立している。

英国のEU離脱をめぐる双方の協議が正念場を迎えている。英ジョンソン首相が提示した新たな離脱案について、EUのバルニエ首席交渉官とバークレイ英離脱担当相が合意に向けた集中協議を11日に開始。難色を示していたEU側が態度を軟化させたことで合意の気運が高まったが、なお決着しておらず、双方は14日にも協議を続ける。10月31日の離脱期限が迫る中、今後数日間の動きがEUと英国の命運を大きく左右することになる。

英政府が2日に提示した新提案は、懸案となっているEU加盟国アイルランドと英領北アイルランドの国境問題をめぐる「バックストップ(安全策)」の代替案となるもの。北アイルランドが工業製品、農産品、食品については離脱後もEUのルールに従うことで、アイルランドと税関検査なしで取引できるようにするという内容だ。税関での検査は、北アイルランドとアイルランドの国境から遠く離れた地点で行い、しかも「申告制」を導入するなどして、手続きを簡素化する。北アイルランドを含む英国全体は移行期間終了後に関税同盟から離脱するが、北アイルランドとアイルランドの貿易は円滑に行えるようになる。

これに対するEU側の反応は当初、税関検査を適正に実施できるか定かでなく、密輸が増えるといった理由で冷ややかだった。8日に行われたジョンソン首相と独メルケル首相の電話会談で、メルケル首相が英国の新提案での合意は「圧倒的にありそうにない」と述べたと伝えられるなど、17、18日のEU首脳会議での合意は絶望的とみられていた。

状況が変わったのは、10日に行われたジョンソン首相とアイルランドのバラッカー首相の首脳会談。この場でジョンソン首相は、公表されていないものの、さらに踏み込んだ新提案を示した。北アイルランドは法的には英国の関税区となるものの、実質的にはEUの関税同盟に残るという内容とされる。アイルランドから北アイルランドに入る工業製品などの検査などは、アイルランド島と英本土にはさまれたアイリッシュ海の上で行い、EU側に入る関税は英国とEUの当局が北アイルランドの港湾で、共同で徴収するという。

これによって北アイルランドは英国がEU離脱後に結ぶ第3国との自由貿易協定を適用されながら、アイルランドと通関なしで貿易できるようになる。さらにジョンソン首相は、新制度を受け入れるかどうかを決める権限を北アイルランドの自治政府と議会に与える方針の撤回も表明したとされる。

これをバラッカー首相が評価し、「合意への道筋が見える」とする共同声明を発表。これを受けてEUと英政府は、バルニエ首席交渉官とバークレイ離脱担当相による集中協議を11日から週末にかけて実施することを決め、合意への期待が一気に高まった。

ただ、13日まで行われた協議では、バルニエ首席交渉官が英提案の税関検査システムが複雑すぎるなどとして問題を提起。13日に英国を除くEU27カ国のEU大使に問題点を報告した。欧州委員会は同日発表した声明で、協議は「建設的」だったが、「多くの作業が残っている」と述べた。一方、英政府によると、ジョンソン首相は13日の閣議で「合意への道は見えているが、まだ問題が山積みだ」と報告。10月末の合意なき離脱に備えるよう呼びかけた。

EUと英国は首脳会議までに実務者レベルの協議で合意に至ることを目指している。バルニエ首席交渉官とバークレイ離脱担当相は14日にも協議を行うが、これが合意に向けた最後のチャンスと目されている。

英国では10月19日までに英議会が離脱協定案を承認し、円滑な形で離脱することが決まらなければ離脱期限を2020年1月31日まで延期することをEUに要請するよう政府に義務付ける法案が成立している。仮に合意できなかった場合、これに沿ってジョンソン首相は離脱延期の要請を迫られるが、何が何でも10月末に離脱するという公約にこだわり、違法行為で訴えられることを覚悟で延期要請を拒む可能性があると報じられている。

また、合意した場合も、与党・保守党が過半数を割り込む英議会で新たな離脱案が承認される必要がある。閣外協力する北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)が北アイルランドと英本土が分断されるとして猛反発しているほか、最大野党・労働党も反対の姿勢で、賛同を取り付ける目途は立っていない。