欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2019/12/16

EU情報

英総選挙で与党・保守党が圧勝、1月末のEU離脱が確実に

この記事の要約

首相のEU離脱方針が信任された格好で、政府がEUと合意した新たな離脱協定案に沿って2020年1月末に離脱することが確実な情勢となった。

EUからの強硬離脱を唱える英極右政党ブレグジット(離脱)党が、前回の選挙で保守党が議席を確保した選挙区で候補者を擁立しなかったことも追い風になった。

英国は当初、2019年3月末に離脱する予定だったが、与党が過半数を割り込んでいる下院で離脱協定案が何度も拒否され、離脱期限が20年1月31日まで延期されることになった。

英国で12日に実施された下院(定数650)の総選挙で、ジョンソン首相率いる与党・保守党が圧勝し、単独で過半数を確保した。首相のEU離脱方針が信任された格好で、政府がEUと合意した新たな離脱協定案に沿って2020年1月末に離脱することが確実な情勢となった。

保守党は365議席を確保。解散前から67議席も増やし、過半数の326議席を大きく超えた。保守党としてはサッチャー政権時代の1987年に実施された総選挙以来の大勝となった。

一方、最大野党の労働党は243議席から203議席に後退。野党第2党のスコットランド民族党(SNP)は13議席増の48議席、第3党の自由民主党は10議席減の11議席となっている。

ジョンソン首相は10月17日に新たな離脱協定案でEUと合意したが、英下院が協定案の早期採決に応じないため、予定していた10月31日の離脱を断念。新協定案の可決には下院で過半数を奪回する必要があるとして、総選挙に踏み切った。

選挙戦の最大の争点はEU離脱問題。保守党は新協定案に沿って1月末までに離脱するという公約を掲げて、離脱支持派の票を取り込む戦術に打って出た。これが奏功し、労働党の地盤のうち離脱支持派が多い選挙区で議席を伸ばした。EUからの強硬離脱を唱える英極右政党ブレグジット(離脱)党が、前回の選挙で保守党が議席を確保した選挙区で候補者を擁立しなかったことも追い風になった。

一方、労働党は離脱の是非を問う国民投票の再実施を公約したが、離脱方針で党内が割れていることから、党として残留と離脱のどちらを支持するかは明言せず、同公約を全面に出すことを控えた。

代わって鉄道や郵便、水道事業の国有化による料金引き下げ、国民医療制度(NHS)への歳出拡大や、富裕層への増税などを掲げて戦ったが、離脱に関する曖昧な姿勢が裏目に出て、離脱反対派の票が同党とSNP、自由民主党に分散する結果を招いた。コービン党首のリーダーシップへの不満もあり、ブレア元首相の地盤だったことで知られるイングランド北東部セッジフィールド選挙区で保守党に議席を奪われるなど歴史的な大敗を喫した。コービン党首は責任をとり、辞任を表明した。

保守党は下院解散後の世論調査で終始、支持率でトップに立っていたが、予想を超える大勝となった。ジョンソン首相は12日、自身の当選が確定した時点で勝利宣言を行い、「EU離脱を進めるための強力な負託を得た」と述べた。

英国は当初、2019年3月末に離脱する予定だったが、与党が過半数を割り込んでいる下院で離脱協定案が何度も拒否され、離脱期限が20年1月31日まで延期されることになった。

ジョンソン首相はクリスマス前までに離脱協定案をめぐる審議を再開し、速やかに可決することを目指す。当選した保守党の議員は首相の方針に従うことを誓っているため、同党が単独過半数を確保したことで協定案は下院で承認される見通し。1月末の離脱が確実となった。これによって離脱をめぐる迷走に終止符が打たれ、何の取り決めもないまま離脱する「合意なき離脱」が回避される。

英国が離脱しても、20年12月末まで移行期間となるため、EUとの関係は現状維持となる。同期間中にEUと自由貿易協定(FTA)、安全保障での協力など新たな関係の構築に向けた交渉を進める。

英国を除くEU27カ国は13日に開いた首脳会議で、保守党の圧勝を受けて、英議会が速やかに離脱協定案を承認することを求める共同声明を採択。FTAなど将来の関係をめぐる交渉の準備に入ることを確認した。同交渉のEU側の代表に、離脱交渉を担ったバルニエ首席交渉官を充てることも決めた。

ジョンソン首相は焦点となるFTA協議で、関税ゼロなどEU単一市場への高度なアクセスを確保することを目指し、交渉に臨む方針だ。しかし、EU側は英国がEUの規制から外れながら単一市場の恩恵を受けるのは「いいとこ取り」として警戒している。共同声明は「できる限り緊密な関係を築く」としながらも、「権利と義務のバランスと公平性」を重視するとして、釘を刺した。

EUと日本、韓国、カナダなどとのFTAは交渉妥結までに5年以上を要した。英国との交渉期間は11カ月と限られている。交渉分野はFTA以外にも多岐にわたり、同期間内で完了させるのは至難の業だ。

双方は協議の時間を稼ぐため、必要と判断した場合に移行期間を1回限りで1~2年延長することで合意している。英国側が20年7月1日までに要請すれば、22年12月末まで交渉を続けることが可能だ。ただ、ジョンソン首相は延長を否定しており、協議が難航すれば再び「合意なき離脱」のリスクが生じることになる。