欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2020/3/30

EU情報

コロナ危機経済対策の合意見送り、ESM活用に独など難色=EU首脳会議

この記事の要約

また、イタリア、スペイン、フランスなど9カ国は「コロナ債」と呼ばれる共同債をユーロ圏が発行し、苦境に陥っている国の財政を支援する案をとりまとめ、ミシェルEU大統領(欧州理事会常任議長)に合意に向けた努力を要請する書簡を首脳会議前日の25日に送付。

首脳会議終了後に出た共同声明には、具体的にESMには言及しなかったものの、合意を見送った経済対策の詳細を2週間以内に提案するようユーロ圏財務相会合に指示する文言が盛り込まれた。

一方、今回の首脳会議では、コロナ危機を管理するシステムの拡充や、感染拡大防止に向けた移動制限など特別措置を危機終息後に解除する「出口戦略」の策定にEU全体で着手することなどで合意した。

EU加盟国は26日に開いたテレビ首脳会議で、新型コロナウイルス感染拡大への対応策について協議した。経済対策が主な議題となったが、ユーロ圏の金融安全網である欧州安定メカニズム(ESM)の資金活用など焦点の案をめぐって意見を調整することができず、結論を先送りした。「コロナ危機」で大きく揺れるEUで加盟国の結束が問われる中、足並みの乱れが浮き彫りとなり、今後の対応への不安を増幅させかないない状況だ。

ユーロ圏は16日に開いた財務相会合で、新型コロナウイルスの感染拡大が経済に及ぼす影響を最小限に抑えるため、あらゆる必要な措置を講じていくことを確認した。その一環として、本来は金融危機に陥ったユーロ圏の国に支援を行うESMの4,100億ユーロに上る融資枠を新型コロナ対応に活用することで合意。24日に開いた財務相会合では、ESMが各国向けに予防的な特別信用供与枠を設ける案が提示され、各国から基本的に支持された。

ESM活用は、新型コロナの感染拡大が経済に大打撃を与え、マイナス成長となることが避けられない情勢となっている中、各国が対策に巨額の財政出動を迫られることで債務危機が生じ、国債の利回りが急上昇することなどを防ぐ狙いがある。供与枠は各国の国内総生産(GDP)の2%程度が基準となる。

この案は新型コロナウイルスの感染が危機的な状況に達しているイタリア、スペイン、フランスなどが強く支持している。しかし、今回の首脳会議では、ドイツとオランダが難色を示し、合意に至らなかった。

また、イタリア、スペイン、フランスなど9カ国は「コロナ債」と呼ばれる共同債をユーロ圏が発行し、苦境に陥っている国の財政を支援する案をとりまとめ、ミシェルEU大統領(欧州理事会常任議長)に合意に向けた努力を要請する書簡を首脳会議前日の25日に送付。これについても首脳会議で協議されたが、ドイツとオランダが拒否した。

これらの経済対策にドイツとオランダが後ろ向きなのは、すでにEUが財政規律の適用を一時的に停止し、各国が赤字を気にせずにコロナ対策に財政出動できるようになり、欧州中央銀行(ECB)が量的金融緩和を拡大するといった対策を講じたことが背景にある。現時点で手当ては十分で、コロナ危機が長期化する事態に備えて、こうした特別措置は温存するのが望ましいという考え方だ。

これに対して、イタリアなどは財政不安を抱えているため、対策実施の財政面での裏付けとしてESM活用とコロナ債が必要と主張しているが、財政健全化を重視するドイツ、オランダとの溝は深い。とくに両国はコロナ債に関して、受益国の債務を肩代わりすることになりかねないとして強硬に反発しており、実現は難しそうだ。

ただ、ESM活用については、独メルケル首相が「(コロナ債と比べて)望ましい手段だ」と述べ、受け入れの用意があることを示唆しており、合意の可能性はある。首脳会議終了後に出た共同声明には、具体的にESMには言及しなかったものの、合意を見送った経済対策の詳細を2週間以内に提案するようユーロ圏財務相会合に指示する文言が盛り込まれた。

ここで問題となるのが条件だ。イタリアなどは無条件での特別信用供与枠を求めているが、ドイツなどは供与を受けた国の財政状況を監視するといった条件が必要と主張するのが確実。ユーロ圏財務相会合は、この条件をめぐる調整を進めることが課題となりそうだ。

一方、今回の首脳会議では、コロナ危機を管理するシステムの拡充や、感染拡大防止に向けた移動制限など特別措置を危機終息後に解除する「出口戦略」の策定にEU全体で着手することなどで合意した。