欧州中央銀行(ECB)は8日、1年半にわたり実施してきた金融政策の戦略見直しの結果、物価上昇率の目標をこれまでの「2%未満でそれに近い水準」から「2%」に変更すると発表した。物価の一時的な上振れを容認することで、強力な緩和策を長期間継続する姿勢を明確にした。また、金融政策の運営にあたって気候変動への取り組みを考慮し、社債の買い入れなどに気候変動リスクを組み入れて資産のグリーン化を進める方針も示した。
ECBは2020年1月、大規模な緩和策を実施しても物価上昇率が目標とする「2%近く」を大きく割り込む状況が続く中で、03年以来となる金融政策の戦略見直しに着手した。エネルギー価格の上昇などで足元の物価上昇率は2%程度まで高まっているが、ECBは22年以降、再び目標を割り込むと予想している。
ECBは声明で、物価安定に向けて「中期的に2%を目指すことが最善」としたうえで、物価の上昇だけでなく、下振れも「同様に好ましくない」と明記。物価上昇率が長期にわたり目標を下回って推移し、ユーロ圏経済の潜在力の重しとなる状態から脱却するため、物価目標を変更して緩和策をより長期にわたって維持する姿勢を打ち出した。目標からどの程度の上振れを容認するかについては具体的な数値を示していない。
ラガルド総裁は記者会見で「物価の伸びが常に2%にならないことは承知している。上下両方向に緩やかで一時的な乖離があっても問題ではないが、持続的に大幅な乖離があれば深刻な懸念材料になる」と指摘。目標を「2%近く」から「2%」に修正した点については「曖昧さを取り除き、2%が上限ではないことを明確にするものだ」と強調した。また、米連邦準備理事会(FRB)が昨年導入した平均物価目標(物価上昇率が一定期間2%を上回ることを許容し、平均2%程度を目指す政策)とは異なると述べた。
ECBは今回、気候変動への取り組みを強化する戦略もまとめた。EUは2050年までに域内の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標掲げ、中間目標として30年までに1990年比55%減の実現を目指している。ECBは「金融政策の枠組みに気候変動への配慮を組み入れていく」と表明。社債の買い入れなどに際して気候変動リスクを考慮するほか、エコファンドや環境格付融資のようなグリーン金融商品や、気候変動リスクへのエクスポージャーを対象とした新たな指標の開発、担保の受け入れや資産購入に際して気候変動対応に関する情報開示を義務付けるルールの導入などに取り組む方針を示した。