欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2021/7/19

欧州委が温効ガス削減目標達成の政策案発表、35年のガソリン車販売禁止など柱

この記事の要約

欧州委員会は14日、2030年までにEU域内の温室効果ガス排出量を1990年比で55%削減する目標を達成するための包括的政策案を発表した。35年にハイブリッド車を含むガソリン車などの新車販売を事実上禁止したり、環境規制の […]

欧州委員会は14日、2030年までにEU域内の温室効果ガス排出量を1990年比で55%削減する目標を達成するための包括的政策案を発表した。35年にハイブリッド車を含むガソリン車などの新車販売を事実上禁止したり、環境規制の緩い国からの輸入品に課税する「国境炭素調整メカニズム(CBAM)」を23年から段階的に導入することなどが柱。今後は閣僚理事会と欧州議会で欧州委案について協議する。

EUは50年に域内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げており、30年を達成期限とする目標はその中間点となる。50年までの気候中立の達成を拘束力のある目標として法制化する「欧州気候法」が6月に欧州議会で採択され、これに伴い30年の中間目標が確定したことで、欧州委が達成に向けた政策パッケージ「Fit for 55」を提案した。

乗用車の排出規制に関しては、新車の二酸化炭素(CO2)排出量を30年までに21年比で55%削減し(従来の目標は37.5%減)、35年に「排出ゼロ」とする方針を打ち出した。これに伴い、ガソリン車やディーゼル車の新車販売は、ハイブリッド車を含めて35年に事実上禁止する。

欧州委のフォンデアライエン委員長は記者会見で「欧州は気候変動に対応するための野心的な目標に見合う、包括的な仕組みを提示した最初の大陸になった」と強調。「化石燃料に依存する経済は限界に達した」と述べ、脱炭素社会の実現に向けて電気自動車(EV)などへの転換を加速させる方針を示した。

一方、23年からの段階的導入を目指すCBAMは国境炭素税とも呼ばれる。EU域内の事業者がCBAMの対象となる製品を域外から輸入する際、域内で製造した場合にEU排出量取引制度に基づいて課される炭素価格に対応した価格の支払いを義務付ける内容。域内の企業が温暖化対策のための重いコストを負担し、規制の緩い域外の企業との競争で不利な立場に立たされる状況を阻止する狙いがある。

当面の課税対象は鉄鋼、アルミニウム、セメント、電力、肥料の5品目。23年から3年間を移行期間として輸入業者に報告義務を課し、26年から徴税を開始する。具体的には輸入業者に製品の製造国や量などを記録した証明書の提示を義務付け、製造過程における排出量に応じて課税金額を算出して事業者に負担を求める。課税品目のEU向け輸出が多いロシアや中国、トルコなどの企業が影響を受ける見通し。欧州委はCBAMの導入による新たな税収が年間100億ユーロ程度に上るとみている。移行期間を設けて緩やかに導入を進める計画だが、CBAMは域外の企業にEU並みの対策を要求するもので、貿易摩擦につながるリスクもある。

欧州委はさらに、排出量取引制度の改正案も提示した。現行制度の対象となっている発電、鉄鋼・セメント・石油精製などのエネルギー集約型産業や、欧州経済領域(EEA)内を運航する航空便などについて、1年ごとの排出上限の削減率を現行の2.2%から4.2%に引き上げるほか、新たに海運業を規制の対象とし、大型船舶(総トン数5,000トン以上)を適用対象に加える。

一方、自動車と建物の冷暖房用の燃料を対象とする新たな排出量取引制度を設ける計画も打ち出した。燃料取引に炭素価格を上乗せすることで化石燃料の利用を抑制するのが狙い。25年の運用開始を目指す。

政策案にはこのほか、再生可能エネルギーの普及目標や省エネ目標を引き上げることなども盛り込まれている。

一連の積極的な対策で市民生活に直接的な影響が及ぶことから、欧州委は低所得層の負担軽減などを目的とする「社会気候基金」の創設を併せて提案した。CBAMの導入や排出量取引制度の拡充などで得られる収入の25%を財源とし、32年までに720億ユーロ規模にする計画。電気自動車の購入支援や、エネルギー効率向上のため古い建物を改修する際の補助金などに充てる方針だ。

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