欧州委員会は3月28日、一定規模の投資の見返りに域外の富裕層などに国籍を付与する「ゴールデンパスポート」制度を直ちに廃止するよう加盟国に勧告した。また、投資と引き換えに居住権を与える「ゴールデンビザ」制度は引き続き容認するものの、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアと同国を支持するベラルーシの国民に居住権を付与しないよう求めた。
欧州では2010年代前半にギリシャの財政問題に端を発した債務危機が南欧からユーロ圏に広がり、経済再生に向けて投資と引き換えに居住権などを与える制度を導入する国が増えた。ゴールデンパスポートは不動産投資などの見返りとして国籍を付与する仕組みで、キプロスとマルタ、ブルガリアで導入されている。必要な投資額は100万~200万ユーロとされる。EU加盟国の国籍を取得すれば自動的にEU市民としての権利や恩恵を享受でき、域内の他の国での就労、居住が認められるほか、選挙権なども得ることができる。
同制度は以前から資金洗浄や脱税、犯罪組織との関連性が指摘されていたが、欧州委はロシアのウクライナ侵攻によって安全保障上のリスクが高まったと指摘。3カ国に対してゴールデンパスポートを直ちに廃止すると共に、これまでに国籍を付与した外国人のリストをチェックし、EUへの渡航禁止や資金凍結などの制裁対象となっているロシア人とベラルーシ人が含まれている場合は、剥奪を含む対応を検討するよう求めた。
一方、ゴールデンビザ制度は現在12カ国で導入されている。居住権の取得に必要な投資額は最低6万~125万ユーロ。欧州委は加盟国に対し、審査に際して資金洗浄や犯罪組織などとの関連性のほか、継続的に居住する意思や条件を厳しくチェックするよう要請。全てのロシア人とベラルーシ人に対して居住許可証の交付を停止すると共に、制裁対象となっているロシア人とベラルーシ人に居住権を付与している場合は直ちに剥奪するか、更新を拒否するよう求めている。
ゴールデンパスポート/ビザ制度を導入している加盟国は、5月末までに勧告の実施状況を欧州委に報告する必要がある。
欧州委は2020年10月、ゴールデンパスポート制度は実質的にEU市民権を「販売」するスキームであり、EU条約に違反するとして、キプロスとマルタに対して是正を求める法的手続きに入った。一方、欧州議会は3月、25年までにゴールデンパスポート/ビザ制度を完全に廃止する法案を賛成多数で可決した。こうした中でブルガリアを含む3カ国は、いずれもゴールデンパスポートを廃止する方針を表明している。