英政府は4月28日、離脱したEUから輸入する物品に対する完全な税関検査の実施を2023年末まで延期すると発表した。7月1日から実施することになっていたが、物価が急上昇していることから大幅な延期を決めた。延期は4度目となる。
英政府は当初、EUからの輸入品について、離脱の移行期間が終了する21年1月1日から他の国の物品と同様の税関検査を実施する予定だった。しかし、20年6月、コロナ禍で苦境にある国内企業が通関手続きを迫られることで、さらに厳しい状況にさらされるとして、21年7月まで先送りすることを決定。21年3月、9月にも輸入事業者の準備の遅れ、サプライチェーンの混乱を理由に再延期を決めていた。
7月1日からはEUから輸入する農産品、動植物の現物検査が必要となり、完全検査体制に移行するはずだった。EU産のソーセージなど冷蔵食肉製品の輸入も制限することになっていた。これを再び先送りし、農産品、動植物の「安全性・セキュリティ申告」免除も含めて23年12月末まで現状維持とすることを決めた。
英政府は今回の決定について、エネルギー価格などの上昇がロシアのウクライナ侵攻で加速していることを理由に挙げた。完全な税関検査に移行すると事業者の通関コストが膨らみ、食品などの価格に転嫁されて、さらなる物価上昇を招くという言い分だ。
さらに政府は、EUからの輸入品の税関検査を将来的にデジタル技術を使って簡素化する方針で、年内に新システムの詳細を発表する予定。23年末から新システムに移行する計画だ。
今回の決定について、英国の小売業界などからは歓迎の声が出ている一方で、港湾運営事業者は準備が無駄になったとして反発。完全検査に備えた投資の補償を政府に求める構えだ。
動植物の検疫が先送りされることについても、国内の農業団体などが家畜などの伝染性が広がりかねないと批判している。これに対して政府は、EUの衛生基準が厳しいため、問題はないとして理解を求めている。
EU側は英国の完全離脱と同時に、英国から輸入する物品への税関検査を実施している。このため、英国の輸出事業者はEUの事業者と比べて不利な状況が続くことになる。