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2010/8/11

コーヒーブレイク

旧EU加盟国の不安増大、東欧3国の国籍政策で

この記事の要約

ルーマニアのバセスク首相は先ごろ、テレビの特別番組で、国外で働くルーマニア人200万人に「感謝の意」を表した。「国庫の負担になる生活保護などの社会保障を受けることなく、立派に働いている」と話し、「ルーマニア人が多くの国で […]

ルーマニアのバセスク首相は先ごろ、テレビの特別番組で、国外で働くルーマニア人200万人に「感謝の意」を表した。「国庫の負担になる生活保護などの社会保障を受けることなく、立派に働いている」と話し、「ルーマニア人が多くの国で労働力として受け入れられているのは、『西欧市民』が手厚い社会保障に甘やかされて無精になっている(=働かない)からだ」とぶち上げた。

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この発言の背景には、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリーが、国外に在住する自国系住民に国籍取得を認める方針を打ち出したことに、他のEU加盟国市民の危機感が高まっている事実がある。EU外の貧しい国に暮らすおよそ500万人が、文字通り「EUへのパスポート」を得ると予測されるためだ。EU東方拡大以前からの旧加盟国では、非熟練労働者が大量に流入して国の社会保障負担が増えるとの懸念が浮上している。バセスク首相はこれに対し、ルーマニア人が出稼ぎ先で社会保障財政の負担にはなることはないと反論したわけだ。

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潜在的「新EU市民」の多くは、モルドバ、マケドニア、セルビア、ウクライナ、トルコに住んでいる。戦争による国境の移動や、共産主義政権による弾圧からの逃亡といった歴史的理由によって本国とのつながりを断ち切られた人々だ。モルドバの一人当たり年間平均収入は1,500米ドル、マケドニアは4,500ドル、セルビアは6,000ドル、ウクライナは2,500ドル、経済発展の著しいトルコでも1万ドルに過ぎない。必然的に出稼ぎや移住を考える人が多いと推測される。

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同じような措置を採ったスペインの例では、生活水準の低いラテンアメリカ諸国からの国籍申請が95%を占めており、3国の措置で新たな労働力が大量に流入すると考えるのは道理だ。金融危機のあおりで各国とも経済の建て直しに尽力するなか、失業率を押し上げかねない人口流入を懸念するのは無理ないといえよう。ただ、政府レベルでは、「国籍政策は各国の判断に任されている」として公然と批判が聞かれることがない。それがかえって国民の不満をかきたてているようだ。遠回りなようでも、率直かつ活発な議論を展開させることが、国民の不安を取り除き、外国人排斥の動きを抑制する唯一の道ではないだろうか。

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