考える力を養う教育を~ロシア

ロシアの学校に新しい風を起こす動きが出ている。1980年代終わりに米国で始まった「ティーチフォーアメリカ」に範をとった「ティーチフォーロシア」がそれだ。

一流大学を卒業した人から希望者を募り、集中研修を施した後に2年間、教師として成績の悪い学校に送り込む。学校はこれらの「部外者」を受け入れることで旧習に風穴を開けるきっかけを得る。うまくいけば、生徒のやる気を引き出し、能力向上に結びつけられる、というコンセプトだ。

ロシアでは教員は職業として人気がない。結果として、優秀な学生は他の職を優先する。また、教員の中でも優秀な人はモスクワなど比較的給与の高い地域に集中する。郊外や地方の学校は取り残されてしまう。

「ティーチフォーロシア」を立ち上げたのはサンクトペテルブルグ出身の女性2人、アリョーナ・マルコヴィッチさんとエレナ・ヤルマノヴァさん(ともに27歳)だ。大学で国際関係論を専攻し、留学の経験もある2人は、米国の友人が国家機関への就職を蹴って教師になったことに驚いた。

自らの学校時代は試験のために「勉強、勉強」の毎日だった。先生と違う意見を口にできないケースもあった。モスクワで英語教師をしているヤルマノヴァさんは、「今でも教員のなかには怒鳴り散らし、大きな音でドアを閉める人がいる。生徒を操り、侮辱するようなことも起こっている」という。

これでは生徒の力は伸びない。成長を支えるには違う環境が必要だ。「ティーチフォーロシア」に参加し、モスクワ郊外カリンスコエの学校で英語と数学を教えるアレクサンドル・ヤドリンさんは、「子どもたちに『勉強は楽しい』ということを伝えたい」と話す。授業にはゲームを取り入れ、自ら発言する場を設けた。「先生は怖いもの」と考えている生徒には初め、「どうして怒鳴らないの?」と不思議がられたという。

ロシアでは2000年代に入って様々な分野で国家による締め付けが強まった。学校教育も例外ではない。そのなかで、右翼「国民解放運動(NOD)」などが「西側の手先」と攻撃する「ティーチフォーロシア」が活動を続けている理由は政府の危機感にあるようだ。

ロシアは学校教育目標として「自ら学び、考える力を育てる」、「学んだ知識を生活に生かす力をつける」ことを掲げる。しかし、国際学力調査の結果をみると、知識を問う「国際数学理科教育調査(TIMSS)で10位内に位置する一方、応用力を試す「世界学力調査(PISA)」では数学、読解力、科学でそれぞれ34位、41位、37位と振るわない。国営銀ズベルバンクが「ティーチフォーロシア」のスポンサーになっている背景には、このような事情があるとみられる。

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