チェコでインダストリー4.0に向けた動きが始まっている。政府レベルでは昨年、同国産業貿易省が今後の取り組みに関する報告書を発表した他、同国への進出企業を多く抱えるドイツも商工会議所を通してセミナーを開催するなど同国産業界の動きを後押ししている。
チェコ産業貿易省が昨年9月に発表した国家イニシアチブ「プルミスル4.0」は、インダストリー4.0の流れの中で同国の工業生産の伝統と、中東欧諸国では比較的高い技術水準を生かすべく打ち出されたもので、政府が今後積極的な取り組みを進めていく姿勢を明らかにしている。現在その実施に向けて投資や標準化、応用研究、人材開発、セキュリティと関連規制、エネルギー・運輸・スマートシティへの応用などの分野で検討が進められている模様だ。
また自動車産業を中心に同国に進出している企業を多数持つドイツもチェコ企業の取り組みを後押ししている。ドイツ‐チェコ商工会議所(DTIHK)が昨年の年間テーマにインダストリー4.0を取り上げた他、この4月にもチェコの関係者との合同ワークショップが開催された。
現地紙『リドヴェ・ノヴィニー』は、同国ではドイツ企業へのサプライヤーが重要な位置を占めているためドイツに後れをとらないことが極めて重要だとし、新たに生まれた仕事を国内にとどめ、そのポテンシャルが資金と共に流出しないようにすることが重要だとの見方を示した。
こうした取り組みの一方、同国でもインダストリー4.0による失業の発生が懸念されている。『リドヴェ・ノヴィニー』よると、国際労働機関(ILO)はインダストリー4.0により同国では54%の仕事が失われると試算、産業貿易省の報告書でも中・高等教育の必要な管理部門等の職種であっても影響を受ける可能性が指摘されている。同報告書は、生涯学習など優れた教育システムを整備し、社会政策によって新たな課題に対応しなければ失業の大量発生や投資の流出を招くと警告している。
チェコ・モラヴィア労働組合連盟(CMKOS)のストレドゥラ会長は同紙に対し、我が国は大きく後れを取っているわけではないと述べ、ドイツの産官学一体となった取り組みを例に社会全体の課題としてインダストリー4.0を捉える必要性を訴えた。