クロアチアとスロベニアの国境対立がにわかに先鋭化している。クロアチアが、オランダのハーグ国際仲裁裁判所が出した判決の受け入れを拒否しているためだ。いまや両国とも北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)の一員であり、正面衝突には発展しないだろうが、旧ユーゴ連邦が解体した1991年来の確執がさらに後を引きそうだ。
問題の中心はアドリア海西北部のピラン湾だ。旧ユーゴから両国が独立したため、間に国境を引かなければならなくなった。海洋法上、岸から12海里(22.2キロメートル)まではその国の領海と認められるが、これに沿うと、スロベニアの領海はイタリア、クロアチアの領海に囲まれ、公海へ自由に出入りできない。また、国境画定では歴史上、どちらの国が管轄してきたかなども加味されるため、問題はさらに複雑になる。
国境をめぐる対立が表面化したのは、クロアチアのEU加盟交渉だった。問題が未解決であることを理由に、すでに加盟国であったスロベニアが拒否権を行使して交渉をストップさせたのだ。
加盟を実現するため、クロアチアは国境問題を調停裁判所に付託することに同意した。スロベニアも判決を受け入れることを約束し、クロアチアはEUのメンバーとなった。後は裁判所の判断を待つばかりと思われた。
しかし2015年、審理に携わっていたスロベニア人裁判官が規則に反してスロベニア政府と連絡を取っていたことが発覚し、事態が急転した。裁判官は直ちに辞職したものの、クロアチア議会は審理に対する「信頼が失われた」として、調停付託を取り下げることを決定した。
それでも審理は継続され、先月29日には判決が下された。その内容は◇ピラン湾の4分の3をスロベニア領海と認める◇クロアチア領海に幅2.5海里の水路を定め、スロベニア港に発着する船舶の通行を保証する――などで、クロアチアの主張の多くを退けたものだった。
クロアチア政府は仲裁裁判所の判決文受理を拒否し、二国間交渉での解決を主張している。スロベニア側は判決内容に満足しており、EUに執行を求める立場だ。
欧州委員会は4日、双方が判決を受け入れるべきとの立場を示した。まずは12日の両国首脳会談まで待って様子をみる姿勢だ。25年来の懸案がすぐに片付くとは思えないが、少なくとも大人の話し合いを期待したい。