カザフスタンのナザルバエフ大統領は先ごろ、カザフ語の表記をロシア語に基づくキリル文字から、ローマ字に変更する時期を従来の予定から3年早め、2022年に実施する方針を明らかにした。表記に必要な文字の数が42と多く、コンピューターやスマートフォンでの入力が煩雑であることなど、実用面での理由もあるが、真の狙いはソ連時代の「盟主」ロシアとの距離をやんわり広げていくことにある。
ナザルバエフ大統領はソ連時代からずっと大統領を務めてきた。ロシアが離反の動きにどう対応するかを心得、グルジアやウクライナのような正面対決を避けている。豊富な資源を背景に、すでに経済面では独自の道を進みつつあり、今後は政治的にロシアへの適度な距離感を得ることが課題だ。
そもそもカザフスタンでキリル文字が導入されたのはスターリンが強制したからだ。すでに触れたように、キリル文字はもともとカザフ語のために作られたものではなく、使い勝手が悪い。また、ロシア語からの借用語を表記するためだけの文字が10文字あり、さらに借用語はロシア語の正書法に則って書かなければいけないなど、伝統主義者からみれば屈辱的な側面もある。
中国に100万人以上住むカザフ人はアラビア文字を用いているが、キリル文字はだめでもローマ字は使える人も多い。民族的なまとまりを示す上でも「脱キリル文字」が意味を持つ。
ナザルバエフ大統領は表記以外の面では、ロシア語の位置づけを維持するもようだ。ロシア語はカザフ語と並ぶ公用語で、話者も多く、ロシア語で勉強する学校・大学もある。
同国の政治学者であるサトパエフ氏はこの姿勢について、「時間に任せる策」と推測する。ソ連から独立した1991年にはロシア人が国民の50%強を占めていたが、国外移住や少子化で今では30%以下に減っている。
大統領の指示で、国はカザフ語メディアの育成にも取り組んでいる。娯楽番組では従来のロシアの番組だけでなく、中国や韓国の番組も観られるようになった。
ロシア語の位置づけは変えず、カザフ語の力を強化していくことで、バランスを変えていく――微妙な政治的駆け引きだ。