ロシアでロシア人が不足している。公式統計によると、現在の人口は1億4,680万人(クリミア半島を除くと約1億4,400万人)。国際労働機関(ILO)や米格付け大手のスタンダード&プアーズ(S&P)は2050年に1億3,000万人まで減ると予測する。ロシア連邦統計局(ロススタット)は年30万人の移民を見込み、35年に1億4,590万人と楽観的な予測だ。
しかし、問題は労働人口の減少にある。体制転換後の1990年代の不安の中で、女性が生涯に生む子どもの平均数(合計特殊出生率)は87年の2.2から99年には1.2弱まで急減した。現在では1.7まで回復しているものの、1990~2000年生まれの世代が少ないことは変更不可能だ。全人口に占める15~30歳の比率は02年の24%から15年には20%に縮小し、人手が足りなくなってきた。
それを表しているのが、賃金の上昇だ。2008年から14年まで、生産性の上昇率が年平均1.6%だったのに対し、実質賃金は2.7%上がった。また、その後の経済危機でも企業が解雇を避けたため、賃金こそ減ったが失業率は6%を超えることがなかった。現在は再び賃金が上昇している。
プーチン大統領は出生率上昇に向けて年初から新たな母親手当を導入するなど、支援を拡充した。子持ち世帯を対象とした低利ローンや、条件次第では一人めから児童手当を支給することも始めた。この費用として、今後3年で約90億ドルの予算を組んだ。
しかし、いくら子どもが増えたからといって、戦力になるのは20年後だ。直近の人手不足には効果がない。そこで、専門家らはより早い効果が見込める対策として(1)生産性向上(2)年金給付開始年齢の引き上げ(3)移民受け入れ――の3つを挙げている。ただ、どれも実現が難しそうだ。
(1)では学校教育の強化と設備投資が必要となる。しかし、教育予算は国家財政の4%を占めるに過ぎず、重視されていない。また、官民の建設・設備投資などを合計した総固定資産形成は、08年から15年に年平均1.5%増えたに過ぎず、必要な投資が先送りされている。これを示すように、景気後退期でも工場稼働率は比較的高く、今後需要が拡大しても増産できない状況だ。
(2)を通じて現役世代の人口減少にブレーキをかけることも、プーチン大統領は避けたいもようだ。ロシアの退職年齢は今もなお、1932年にスターリンが決めた女性55歳、男性60歳のまま。男性の平均寿命が67歳なのに対し、女性は10年長い77歳で、年金受給期間が長いこともあり、専門家は年金の給付開始が早すぎるとの意見で一致している。
(3)も簡単にはいかない。ロシアに職を求めてコーカサス地方や中央アジアから移住を希望する人は多いが、景気後退に加えてロシアの保護政策・ナショナリズムの影響で数が減っている。さらに、これらの人々は非熟練労働者であるケースがほとんどで、ロシア人が忌避する建設現場などでの仕事しかできない状況だ。このため、ロシアの人口減少の影響を大きく緩和する効果は期待できない。