英国の元スパイ暗殺未遂事件で使われた神経剤「ノビチョク」が「チェコで昨年製造された」というゼマン大統領の発言で、同事件をめぐる状況が混乱している。ロシア側は「ロシア以外の国が製造した可能性を裏付ける」としてゼマン大統領の「勇気」を称賛。「ロシアが事件の裏で糸を引いていた」と非難する西欧諸国を攻撃した。
しかし、詳細を検討すると、事態はそれほど難しくないようだ。
ゼマン大統領は今月初め、テレビに出演し「昨年11月にブルノの軍事研究所(VVU)で研究目的に少量のノビチョクが生産されたが、試験直後に廃棄した」と発言した。ロシアは、ノビチョクの製造能力がある国として米国、オランダ、スウェーデンを挙げてきたが、チェコ大統領の発言で、「容疑がぬれ衣であることを示す事実がもう一つ増えた」(大統領府)と勢いづいた。
ただ、チェコ政府がその後発表したところによると、チェコで生産されたのは元スパイ殺人未遂事件で検出されたものとは異なる物質だった。ノビチョクは特定の物質を指すのではなくて、化学構造の似ている物質群の名前で、事件に使われたのは「A230」、チェコで作られたのは「A234」だったという。
ゼマン大統領が意図的に名称をめぐる混乱を拡大させたのかどうかはわからない。ただ、大統領の親ロ派ぶりは周知の事実だ。元スパイ殺人未遂事件をめぐるロシア外交官の国外退去処分や、今年4月の英米仏によるシリア攻撃でも、欧米と歩調を合わせるバビシュ首相と明確に異なる立場を明らかにしている。