5月9日はロシアがナチス・ドイツに勝利した戦勝記念日だが、その前日にボルゴグラード(旧スターリングラード)で独ソ青年サッカーチームによる「平和のための」試合が行われた。結果は3対1でドイツが勝ったが、ドイツサッカー協会(DFB)のグリンデル会長は「5月8日にかつてのスターリングラードでドイツ国家が演奏され、皆が喜んで観戦するというのは、大変感慨深い」とコメントした。
スターリングラード攻防戦におけるドイツ軍の敗北は、独ソ戦の転換点と位置付けられる。ドイツ戦没者埋葬地管理援護事業国民連合が整備に当たったボルゴグラードの戦没者慰霊墓地には、細い道を挟んだ片側にソ連兵1万5,000人、もう片側にドイツ兵6万2,000人が埋葬されている。
国民連合はこのほかにも、ドイツ軍が徹底破壊したボルゴグラード郊外のロゾシュカ村に、学校を建てるなどの事業も行っている。
第二次大戦の終結をどう「記念」するかでは、両国の姿勢は大きく異なる。ナチス・ドイツに打ち勝った「英雄的」側面を強調し、軍事パレードで国民の誇りを鼓舞するロシアに対し、ドイツは「反省」を通じた「和解」を目指す。
ドイツの青年サッカーチームには移民系の選手も多い。直接の親戚に独ソ戦で戦った兵士がいなくても、国の代表として戦没者墓地で花を手向け祈りをささげる。そのような姿勢がドイツでは当たり前ととらえられている。
一方、草の根の交流で両国の理解を深める活動をしてきた「バイエルン東西経済フォーラム」の計画が、ロシア人の神経を逆なでする事態も生じた。戦没者墓地に「平和の礼拝堂」を寄贈するプロジェクトなどの実績があるが、今回はボルゴグラード国際空港に、エアバスの監査役会長を務めたフランツヨーゼフ・シュトラウス元国防相(故人)の胸像を寄贈するというので、地元が強く抗議した。というのも、このシュトラウス氏は独ソ戦で第6軍に従軍し、スターリングラード攻防戦に参加していたからだ。
この計画を4月下旬に地元紙が報道して以来、ボルゴグラード当局の姿勢も硬化し、国民連合が予定していた案内板の交換もできない状況となっている。
東西経済フォーラム側はシュトラウス氏の戦後の功績を基に良かれと思って計画したようだが、ドイツでさえ評価が大きく分かれる同氏。加えてナチス・ドイツの兵士だったといえば、ロシア人には「好意」と受け止められないのは道理といえよう。