セルビア国境に近いブルガリアのコピロフツィ村で農家を営むハララムピエフさんはある日、放牧していた場所から妊娠中の乳牛「ピンカ」が姿を消していることに気付いた。心配したが、一週間後にセルビアの警察から電話で、ピンカが無事保護されていると連絡が入った。耳につけてあった個体識別票から持ち主が分かったという。ハララムピエフさんは国境をまたいだ隣村へ迎えに行き、ピンカを連れて戻ってきた。普通だったらここで「めでたし、めでたし」となるはずだったが、そうはいかなかった。
セルビアが欧州連合(EU)に加盟していないことがアダとなった。国境検問所の獣医によると、必要書類がなく「家畜の不法輸入に当たるため、と殺処分にする」と言われたからだ。EU法ではそういう決まりになっているという。
びっくりしたハララムピエフさんだが、「殺すというなら国境警備兵がやればいい。私は殺さない」とがんばり、とりあえず隔離措置となった。ブルガリア食品安全庁が審査して近日中に処分が決まる。
牛の不法な国境越えは思うよりも頻繁に起こっている。特にEU内では国境の柵が取り払われており、ブルガリアにもギリシャの牛が訪れたりしているという。なお、『南ドイツ新聞』によると、2013年にはコソボからセルビアへ越境した牛17頭が隔離措置に処されたことがニュースになった。同新聞は「コソボの独立を認めていないセルビアが牛の『国境』越えを問題にするのもおかしな話」と揶揄している。