ロシアで年金支給年齢引き上げ、生産人口拡大が狙い

ロシア政府は先ごろ、年金支給開始年齢を引き上げる方針を決定した。現在の支給開始年齢である男性60歳、女性55歳からそれぞれ65歳と63歳まで段階的に引き上げる。背景には、平均寿命の伸びや現役勤労者世代の減少に伴う年金基金の赤字などがある。支給開始を遅らせることで受給期間を短くするとともに、現役層に厚みをもたせる公算だ。しかし議会審議を前に国民の間に反発の声が出ており、政権の支持率が低下するなど影響が出ている。

現在の年金支給開始年齢はソ連時代の1930年代に決定されたもので、ソ連崩壊後も年齢の引き上げは行われてこなかった。一方ロシア人男性の平均寿命は30年代の40歳から現在は67歳まで伸びており、2030年には73歳に達すると予想されている。

支給開始年齢の引き上げの必要性は明確だ。年金受給者1人あたりの生産年齢人口は1970年には3.7人だったが、現在では2人まで減少した。今後状況はさらに悪化し、2044年にはこの数字は1人まで減少すると見られている。

しかし、国民の多くは今回の改革に反発している。ある世論調査では国民の10人に9人が反対だ。ドイツ誌『シュテルン』によると、請願用サイト『change.org』では年金改革に反対する署名集めが始まっており、わずか数日間で1,600万人が署名した。同国の最大労組、ロシア労働組合は、ほとんどの地方では男性の平均年齢は60歳で、男性の40%、女性の20%が65歳に達する前に死亡するとも指摘している。政府は反発を抑えるため、年金支給開始年齢を引き上げる一方で支給額の引き上げも検討している。

今回の大幅な制度改正の背景には連邦政府の財政悪化がある。連邦政府は当面、年金基金の赤字に多くの資金を充当する必要がある。過去数年間は個人年金の資金を公的年金の基金に充当するなど通常は取られない手法も取ってきた。加えてプーチン大統領は再選後の5月に財政出動を行うと発表しており、新たな資金を必要としている。政府はそうした歳入不足を解消するため、付加価値税の税率を2019年に2%引き上げ20%とする予定だ。シルアノフ財務相はそれによって歳入が年間6,000億ルーブル(約81億3,790万ユーロ)増加するとしているが、エコノミストは今後のインフレ高進と消費の冷え込みを懸念している。またこうした状況は、このところインフレ抑制に成功してきたロシア中央銀行の金融政策にも悪影響を及ぼしかねない。(1RUB=1.73JPY)

上部へスクロール