ウクライナで3月31日に実施された大統領選挙は、77%開票時点でコメディ俳優のヴォロディミル・ゼレンスキー候補が30.4%を得票し、現職のペトロ・ポロシェンコ候補(16%)やユリア・ティモシェンコ元首相(13.2%)を大きく引き離して首位に立った。ただ、当選要件の過半数には届かなかったため、今月21日にゼレンスキー、ポロシェンコ両候補による決選投票が行われる。投票率は64%と、2014年の前回選挙時の52.7%を大きく上回った。
ゼレンスキー氏はテレビの連続ドラマで大統領を演じる。ドラマのキャラクターと同じく「汚職対策の徹底」を掲げて立候補した。政治に関しては素人だが、それがかえって汚職の蔓(まん)延する政界に辟(へき)易する国民の心をつかんだもようだ。
ただ、ドラマを放映するテレビ局が、ポロシェンコ候補の政敵である富豪(オリガルヒ)のイホル・コロモイスキー氏の傘下にあることから、ゼレンスキー氏の黒幕としてコロモイスキー氏が潜むとの憶測が浮上している。また、米国や欧州連合(EU)主要国の外交官との非公式会談でゼレンスキー氏が質問にまともに答えられなかったと伝えられ、その政治能力に疑念も浮かぶ。
これに対して、同氏の政治顧問を務めるアレクサンドル・ダニルユク氏は「(今回の大統領選は)人物を選ぶ選挙だ。政治経験は周りが補う」と楽観的で、ゼレンスキー氏のキャラクターとチームの知恵が合わされば力量は十分とみている。
一方、ポロシェンコ現大統領は、東部で親ロシア勢力との戦闘が続く中で欧米諸国との結びつきを強化するなどの実績が評価されている。一方で前回選挙の公約だった汚職対策は前進せず、有権者の批判の的となっている。
ウクライナの汚職体質は底知れず、「予算の半分は着服されている」という関係者の推測があるほどだ。選挙法さえ「実質的には買票が可能」な内容で、改正が待たれている。また、強大な力を持つ財閥の取り締まりを実現できる法的基盤を整えることも積年の課題だ。「素人政治家」のゼレンスキー氏が最有力候補となっている背景に、改革が遅々として進んでいない事実があるのは確実だろう。
ゼレンスキー氏の出演するドラマの筋は、ユーチューブとクラウド・ファンディングで大統領に選ばれた主人公が、「政界・経済界のエリート」の中にあっても実直・清貧を貫いて汚職を一掃するというもの。同氏の公約も汚職対策を第一に掲げる。ただ、国際通貨基金(IMF)との関係や対ロ外交などに関連し、大衆迎合主義(ポピュリスト)的な主張も多く、どれだけ現実性があるのかは不明だ。